秘密保持契約(NDA)の作り方 2026|7項目と印紙の要否
「とりあえず雛形をダウンロードして、社名と日付だけ入れて送ればいい」。NDAをそう扱った結果、いざ情報が漏れたときに一切使えなかったという相談は珍しくありません。たとえば、外注先に渡した自社の見積ロジックがそっくり競合に流れたのに、契約書の有効期間が「契約期間中」で止まっていて、取引が終わった時点で守秘義務まで消えていた、というケースです。秘密情報の範囲が曖昧で「どれが秘密だったのか」を立証できない例も後を絶ちません。いずれも「雛形を読まずに使った」ことが原因です。
NDAは契約書の中でも構造がシンプルで、設立直後の小規模事業者でも自分で作れます。ただしシンプルだからこそ、雛形を埋める前に決めておくべき項目を外すと、紙はあるのに守れないという最悪のかたちになります。
本記事では、NDAの雛形を使う前に決める7項目、片務型・双務型の選び方、印紙の要否、契約終了後も守秘義務を残す存続条項、相手から提示されたNDAのチェック方法、そして不正競争防止法の「営業秘密」との関係までを整理します。
【重要】 本記事は2026年6月時点の一般的な契約実務・関連法令に基づく一般情報です。印紙税の取扱いは契約書の具体的な記載内容によって判断が変わり、個別の契約の有効性・リスクは事案ごとに異なります。重要な取引や高額な損害賠償が想定される契約は、締結前に弁護士へのリーガルチェックを推奨します。
① そもそもNDAとは何か(必要になる3つの場面)
NDA(Non-Disclosure Agreement)は、日本語で 秘密保持契約・機密保持契約 と呼ばれ、当事者が知り得た相手の秘密情報を、許可なく第三者に開示したり目的外に使ったりしないことを約束する契約です。略してCA(Confidentiality Agreement)と呼ぶこともあります。
小規模事業者がNDAを必要とする典型は次の3つです。
- 業務委託・外注の前:自社の顧客リスト・原価・ノウハウを外注先に渡すとき
- 共同開発・協業の検討時:互いの技術や企画を見せ合って提携の可否を判断するとき
- 資金調達・M&A・採用の場面:事業計画や財務情報、未公開のプロダクト情報を相手に開示するとき
いずれも共通するのは「情報を渡す前に結ぶ」という点です。NDAは渡した後に漏れた情報を取り戻す手段ではなく、渡す前に「この情報は守ってください」と約束させておくための予防線です。
② 雛形を埋める前に決める7項目
NDAの雛形はネット上に大量にありますが、そのまま使ってよいわけではありません。次の7項目を自社の取引に合わせて決めてから雛形を調整します。
(1) 目的(なぜ情報を開示するのか)
「本件業務委託の検討および遂行のため」のように、情報を渡す目的を具体的に書きます。ここが空欄や「取引に関して」程度だと、後述する「目的外使用の禁止」が機能しません。広すぎると相手が締結を渋り、狭すぎると正当な利用まで縛るため、実際の取引に合わせて過不足なく書きます。
(2) 秘密情報の範囲(何を守るのか)
NDAで最ももめるのがここです。定め方は大きく2通りあります。
- マル秘明示方式:「秘密」「Confidential」と明示した情報だけを対象にする。範囲が明確だが、明示し忘れた情報が守られない
- 包括方式:開示した一切の情報を秘密情報とする。漏れがないが、相手は「どれが秘密か分からず動けない」と嫌がりやすい
実務の定番は、書面・電子データは秘密の表示があるもの、口頭開示は開示後一定期間内に書面で特定したもの、と切り分ける折衷方式です。
(3) 除外事由(守らなくてよい情報)
次のような情報は、秘密情報から除外するのが通常です。これを入れておかないと相手がリスクを警戒して締結に応じません。
- 開示時点ですでに公知だった情報
- 開示後に自社の責によらず公知になった情報
- 開示前から正当に保有していた情報
- 第三者から守秘義務を負わずに正当に入手した情報
- 秘密情報によらず独自に開発した情報
(4) 目的外使用の禁止
受け取った秘密情報を(1)で定めた目的以外に使わない、という条項です。「漏らさない(第三者に出さない)」だけでなく「自社内で流用しない」ことまで縛るのがポイントです。
(5) 第三者開示の制限
原則として第三者への開示を禁止し、例外として「自社の役職員・弁護士など、業務上知る必要がある者に、本契約と同等の義務を課したうえで開示できる」とします。再委託先がいる場合は、再委託先にも同じ義務を負わせる旨を入れます。
(6) 秘密情報の返還・破棄
契約終了時や相手の請求があったときに、受け取った資料やデータを返還・破棄する義務を定めます。クラウド上のコピーやバックアップの扱いまで意識すると実務的です。
(7) 有効期間と存続条項
契約そのものの有効期間(例:1年)と、契約終了後も守秘義務が残る期間(存続条項。例:終了後3年〜5年)を分けて書きます。後述するとおり、ここを分けないとNDAが骨抜きになります。
③ 片務型と双務型の選び方
NDAには、情報を渡す向きによって2タイプあります。
| タイプ | 内容 | 向く場面 |
|---|---|---|
| 片務型(一方向) | 一方だけが情報を開示し、受け取る側だけが守秘義務を負う | 自社だけが情報を渡す外注・採用・調査委託 |
| 双務型(双方向) | 双方が情報を開示し合い、互いに守秘義務を負う | 共同開発・業務提携・M&A検討など対等な協業 |
立場が対等なのに片務型を相手から提示された場合、自社だけが縛られていないか確認が必要です。逆に自社だけが情報を渡すのに双務型にすると、条項が無駄に複雑になります。情報の流れる向きで素直に選ぶのが基本です。
④ NDAに収入印紙は必要か
結論から言うと、秘密保持だけを定める一般的なNDA単体には収入印紙は不要です。印紙税は印紙税法が定める「課税文書」にのみ課されますが、秘密保持を目的とするNDAは原則としてこの課税文書のいずれにも当たらないためです。
注意したいのは、NDAの中に継続的な売買や業務委託の基本条件(取扱数量・単価・支払方法など)まで一体で書き込むケースです。この場合、契約書全体が 第7号文書「継続的取引の基本となる契約書」(1通4,000円) と判断されることがあります。秘密保持だけを定める限りは不課税、というのが原則です。
なお、電子契約で締結した場合は、そもそも印紙税の課税対象外です。クラウド型の電子契約サービスで締結すれば、印紙代も郵送の手間もかかりません。詳しくは 業務委託契約書と印紙税 も参照してください。
⑤ 存続条項:契約が終わっても守秘義務を残す
NDAで最も見落とされ、かつ最も効くのが 存続条項(残存条項) です。
有効期間を「本契約の有効期間は締結日から1年とする」とだけ書いて満足してしまうと、1年が過ぎた瞬間に守秘義務まで消えます。秘密情報の価値は契約終了後も続くのに、義務だけが先に切れるのです。
これを防ぐには、契約期間とは別に「本契約が終了した後も、第○条(秘密保持)の義務は契約終了後◯年間存続する」という条項を入れます。情報の性質に応じて、終了後3年・5年、ノウハウなど価値が長く続くものは無期限とすることもあります。
契約は1年で終わるが、守秘義務はその後5年残る。この二段構えが、NDAを実際に機能させる背骨です。
⑥ 相手から提示されたNDAをチェックする3点
スタートアップや個人事業主は、自分でNDAを作る場面より、大手や発注元から提示されたNDAに押印を求められる場面のほうが多いものです。送られてきた一枚にそのままサインする前に、最低限この3点を確認します。
- 片務型で自社だけが縛られていないか:互いに情報を出し合う取引なのに、自社だけが守秘義務を負う片務型になっていないか。対等な協業なら双務型が筋です
- 目的が広すぎて本業まで制限されないか:「両社のあらゆる取引」のような広い目的だと、受け取った情報に少しでも触れる自社の既存事業まで「目的外使用」と言われかねません。目的は今回の案件に限定されているか確認します
- 存続条項・競業避止が過大になっていないか:守秘義務が無期限、あるいは秘密保持を超えて競業避止(似た事業をしない約束)まで紛れ込んでいないか。受け入れられる範囲か見極めます
違和感があれば「目的を本件に限定してほしい」「存続期間を◯年にしたい」と修正を申し入れて構いません。NDAは雛形どおりに押すものではなく、交渉して整えるものです。
⑦ NDAは「営業秘密」を守る土台になる
NDAを結ぶメリットは、契約違反として相手の責任を追及できることだけではありません。不正競争防止法上の 「営業秘密」 の保護とも深く関わります。
不正競争防止法では、①秘密管理性(秘密として管理されていること)②有用性(事業活動に有用な情報であること)③非公知性(公然と知られていないこと)の3要件をすべて満たす情報は「営業秘密」として法的に保護され、不正に持ち出した相手に差止めや損害賠償を求められます。NDAがなくても、この3要件を満たせば保護の対象になります。
ただし実務で最ももめるのが①の 秘密管理性 です。「会社が秘密として扱っていたか」を客観的に示せないと、営業秘密と認められません。ここでNDAが効きます。相手とNDAを結び、資料に「マル秘」を表示し、アクセスできる人を限定しておくことは、秘密管理性を裏づける有力な証拠になります。
つまりNDAは、営業秘密保護の代わりではなく、いざというときに「きちんと秘密として管理していた」と立証するための二重の保険です。
⑧ よくある失敗5つ
- 目的が広すぎて締結を渋られる:「両社のあらゆる取引に関して」と書くと、相手は事業全体を縛られる懸念から押印をためらう。目的は今回の検討に絞る
- 秘密情報を包括方式にしたまま運用しない:「一切の情報」と書いても、いざとなると「それが秘密だった」立証が難しい。重要書類には「マル秘」を明示する運用をセットにする
- 除外事由を入れ忘れる:公知情報や独自開発まで縛る片務的なNDAは、まともな相手ほど締結に応じない
- 存続条項がない:契約終了と同時に守秘義務が消える(⑤参照)
- 押印して満足し、運用しない:退職した担当者のPCに秘密資料が残ったまま、相手企業に資料が滞留したまま、が典型。誰にどの情報を渡したかを記録し、終了時に返還・破棄させて初めてNDAは機能する
⑨ 結論:資料を送る前に「有効期間」の条文を見る
NDAは構造がシンプルなぶん、雛形をそのまま使っても「形式は整っているのに守れない」契約になりがちです。鍵は7項目を自社の取引に合わせて決めること、契約終了後も守秘義務を残す存続条項を入れること、そして相手から提示された一枚も「自社が縛られすぎていないか」を確認することです。
まず何から? 次に外注先や取引先へ資料を送る前に、手元の雛形の「有効期間」の条文を一度見てください。そこが「契約期間中」で止まっていたら、それが直すべき最初の一行です。条文の下書きは 契約書ジェネレーター でも作成できます。契約本体は 業務委託契約書の作り方、印紙不要の締結方法は 電子契約サービス比較 2026 を参照してください。
よくある質問(FAQ)
Q. NDAと機密保持契約・秘密保持契約は違う?
すべて同じ契約を指す呼び方です。NDA(Non-Disclosure Agreement)、CA(Confidentiality Agreement)も同義です。
Q. 口約束でも秘密は守ってもらえる?
法的に主張する余地はありますが、何が秘密情報だったか・いつ伝えたかの立証が極めて困難です。書面または電子契約で残すべきです。
Q. NDAに収入印紙は必要?
秘密保持のみの一般的なNDAは課税文書に当たらず印紙不要が原則。取引条件まで一体で書くと第7号文書(1通4,000円)になる場合がありますが、契約期間3か月以内で更新の定めがなければ対象外です。電子契約なら課税対象外です。
Q. 有効期間は何年にすればいい?
契約自体は1年とし、別途「契約終了後も守秘義務は◯年存続」と存続条項を置くのが実務的。情報の価値が長いものは終了後3〜5年や無期限とします。
Q. 相手から送られてきたNDAはそのまま押していい?
片務型で自社だけが縛られていないか、目的が広すぎないか、存続条項や競業避止が過大でないかを確認。違和感があれば修正を申し入れて構いません。
Q. 片務型と双務型、迷ったら?
自社だけが情報を渡すなら片務型、互いに見せ合うなら双務型。情報の流れる向きで選びます。
