インボイス2割特例の「次」を今決める|簡易課税と本則の選び方・届出の逆算
「2割特例のおかげで、消費税は売上にかかった消費税の2割を納めるだけで済んでいた」。インボイスに登録した多くの小規模事業者が、この特例で最初の数年を乗り切ってきました。
その2割特例が、まもなく終わります。しかも、終わり方は個人と法人で違います。ここを勘違いすると「来年からいきなり本則課税で税額が跳ね上がった」ということになりかねません。この記事では、あなたが個人か法人かを起点に、特例のあと何を・いつまでに決めればいいかを整理します。制度の細かい仕組みは既存の記事にゆずり、ここでは「自分はどうするか」の判断に集中します。
【重要】 本記事は2026年7月時点の法令・国税庁公開情報に基づき、一般的な考え方を整理したものです。適用の可否・期限・税額は個々の事情で変わります。実際の選択・届出の前に、国税庁や所轄の税務署の最新情報、または税理士にご確認ください。
【まず自分の締切を知る】あなたの2割特例はいつ終わる?
やることの前に、期限です。2割特例(インボイス登録した免税事業者が、納税額を「売上にかかる消費税 × 20%」にできる特例)の終わる時期は、次のように分かれます。
- 個人事業主:令和8年分(2026年分)まで。そのあと令和9年分・令和10年分は、基準期間(原則2年前)の課税売上高が1,000万円以下などの条件を満たせば、自動的に3割特例に移ります。これは「納税額を売上にかかる消費税の3割にする」(=仕入税額を売上税額の7割とみなす)経過措置で、届出は不要、確定申告書にその旨を付記するだけです。負担は2割特例(2割)より重くなる点に注意してください。
- 法人:令和8年9月30日を含む事業年度まで。たとえば3月決算なら令和8年度(〜令和9年3月)まで、12月決算なら令和8年(〜令和8年12月)まで。決算月によって終了時期がずれます。法人には3割特例はありません。
つまり、個人はもう2年ほど猶予がある一方、法人は決算月次第で、次の申告がすでに「本則か簡易か」の分かれ道ということもあります。法人は3割特例という猶予がないぶん、2割特例が切れる事業年度の「開始前日」までに簡易課税を選ぶかどうかを決める必要があります(後述の逆算カレンダーが、個人より切迫します)。まずは自分の終了時期をカレンダーで確かめてください。
2割特例が終わったらどうする? 選択肢は本則課税と簡易課税の2つ
2割特例(個人はそのあとの3割特例も)が終わると、消費税の計算方法は原則として次の2つから選ぶことになります。
- 本則課税(原則課税):売上にかかった消費税から、実際に支払った仕入・経費にかかった消費税を差し引いて納める。仕入のインボイスを保存する必要があります。なお、免税事業者(インボイスを出せない相手)からの仕入は、経過措置で控除できる割合が段階的に縮小します(令和8年9月まで80%、その後は50%)。
- 簡易課税:売上にかかった消費税に、業種ごとの「みなし仕入率」を掛けた額を仕入税額とみなして差し引く。実際の仕入を集計しなくてよいぶん、事務がぐっと軽くなります。
なお、基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら、インボイスの登録そのものを取りやめて免税事業者に戻る選択肢もあります(ただしインボイスを出せなくなるため、取引先が課税事業者中心だと影響が出ます)。ここでは、登録を続けて課税事業者でいく前提で、本則と簡易のどちらが自分に向くかの判断に絞ります。制度の詳しい要件は、インボイスに登録すべきかと適格請求書の仕組みで解説しています。
【1分診断】あなたは簡易課税向き? 本則課税向き?
次の4つに答えると、向き・不向きの目安がつきます。
- 業種の仕入は多い? 少ない? 手元に残る利幅が大きい(=仕入が少ない)サービス業・コンサル・ライター等は、実際の仕入税額より「みなし仕入率」で引けるほうが得になりやすく、簡易課税向きです。
- これから大きな設備投資の予定は? 高額な機械・車両・店舗内装などを買う予定があるなら、その年は仕入税額が大きく、本則課税なら差額が還付されることがあります(簡易課税では還付は受けられません)。
- 基準期間の課税売上は5,000万円以下? 簡易課税は基準期間(原則2年前)の課税売上高が5,000万円以下でなければ選べません。超えるなら本則課税一択です。
- 経理に手が回る? 本則課税は仕入のインボイスを1枚ずつ保存・集計する必要があり、事務の手間がかかります。簡易課税なら売上だけで計算できます。ひとりで経理まで抱えているなら、税額が多少本則有利でも、事務が軽い簡易を選ぶ判断もあります。
ざっくり言えば、「仕入が少なく、大きな設備投資もなく、経理に手が回りにくい」なら簡易課税、「仕入や設備投資が大きく、経理体制がある」なら本則課税が目安です。ただし業種や年によって逆転するので、最後はシミュレーターで数字を見て決めるのが確実です。
みなし仕入率 早見表(簡易課税)
簡易課税を選んだ場合、業種ごとに次の「みなし仕入率」で仕入税額を計算します。
| 事業区分 | みなし仕入率 | 主な業種 |
|---|---|---|
| 第1種 | 90% | 卸売業 |
| 第2種 | 80% | 小売業、農林漁業(飲食料品) |
| 第3種 | 70% | 製造業、建設業、農林漁業 |
| 第4種 | 60% | 飲食店業、加工賃などを対価とする役務提供(他の区分以外) |
| 第5種 | 50% | サービス業、運輸・通信業、金融・保険業 |
| 第6種 | 40% | 不動産業 |
みなし仕入率が高い(=差し引ける額が大きい)ほど、簡易課税は有利になります。たとえばサービス業(第5種・50%)なら、売上にかかる消費税の半分を仕入税額とみなせるため、実際の仕入がそれより少ない事業者は簡易課税で得をします。自分がどの区分か分からなければ、後述のシミュレーターで業種を選べば自動で判定できます。
簡易課税は還付を受けられない|設備投資の年は本則課税
ふだんは簡易課税が有利な業種でも、「大きな買い物をする年」だけは話が変わります。
たとえば、ある年に事業用の車両や設備を数百万円分購入する予定があるとします。この年は仕入にかかった消費税が大きくなるので、本則課税なら売上税額を上回って還付になることもあります。簡易課税ではこの還付は受けられません。
ただし、簡易課税には2年間の継続適用の縛りがあります。「投資の年だけ本則、翌年また簡易」と都合よく行き来はできないので、大きな投資の予定は届出の前に見通しておく必要があります。
【最重要】届出の逆算カレンダー
ここが実務でいちばん取りこぼしやすいところです。簡易課税を選ぶには、「適用を受けたい課税期間が始まる日の前日まで」に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなければなりません。
- 個人事業主:令和9年分から簡易課税にしたいなら、令和8年12月31日までに提出。
- 法人:適用したい事業年度が始まる前日まで(3月決算で令和9年度からなら令和9年3月31日まで)。
提出が1日でも遅れると、その課税期間は自動的に本則課税になります。そして前述のとおり、簡易課税はいったん選ぶと2年間は続ける必要があり、やめるときは「簡易課税制度選択不適用届出書」を、やめたい課税期間の前日までに出します。
▼ 3割特例を使ってきた個人は、締切が緩みます。 3割特例を適用した課税期間の「翌課税期間中(=翌年の確定申告期限まで)」に簡易課税選択届出書を出せば、その翌課税期間から簡易課税を使えます。通常の「初日の前日まで」より遅らせて判断できるので、令和10年分まで3割特例で粘って、令和11年から簡易課税へ、という進め方も可能です。
「特例が切れてから考えよう」では、この届出期限に間に合わないことがあります。個人なら年末、法人なら期末が締切だと、いまのうちにカレンダーへ書き込んでおいてください。
ツールで3方式を試算する
「自分はどっちが得か、結局いくら違うのか」は、数字で見るのがいちばんです。
Toolbox Portal の 消費税シミュレーター は、売上・仕入と業種を入れると、本則課税・簡易課税・2割特例の3方式の納税額を並べて比較できます。みなし仕入率も業種ごとに自動で反映されるので、「簡易にすると何万円変わるか」「設備投資の年は本則で還付になるか」を、届出を出す前に数字で確かめられます。登録不要・ブラウザ完結です。なお、本則課税を選ぶなら仕入インボイスの保存・集計が必要になるので、あわせて会計ソフトの比較も見ておくと事務の準備がスムーズです。
よくある質問(FAQ)
Q. インボイスの2割特例が終わったら、消費税はどうすればいいですか?
まず自分が個人か法人かで終わる時期が違います。個人事業主は令和8年分(2026年分)で2割特例が終わり、令和9・10年分は基準期間の課税売上が1,000万円以下などの条件で「3割特例」(納税額を売上税額の3割にする経過措置・届出不要)が使えます。法人は令和8年9月30日を含む事業年度までで、決算月によってはもっと早く切れます。特例が終わったあとは本則課税か簡易課税を選びます。
Q. 簡易課税と本則課税、どちらが得ですか?
目安は「仕入が少なく、大きな設備投資もなく、経理に手が回りにくい」なら簡易課税、「仕入や設備投資が大きく、経理体制がある」なら本則課税です。サービス業などみなし仕入率で引ける割合が実際の仕入より大きい業種は簡易課税が有利になりやすく、高額な設備を買う年は本則課税なら還付を受けられます(簡易課税では還付は受けられません)。業種や年で逆転するため、最後はシミュレーターで3方式を比べて決めるのが確実です。
Q. 簡易課税を選ぶ届出の期限はいつですか?
「消費税簡易課税制度選択届出書」を、適用を受けたい課税期間が始まる日の前日までに提出します。個人事業主は前年の12月31日、法人は前事業年度の末日が期限です。いったん選ぶと2年間は継続適用になります。なお、3割特例を使ってきた個人は、3割特例を適用した課税期間の翌課税期間(翌年の確定申告期限まで)に届出を出せば翌期から簡易課税にできる移行特例があります。
Q. 3割特例とは何ですか?2割特例と違いますか?
3割特例は、2割特例のあと個人事業主に用意された経過措置で、令和9年分・令和10年分に、納税額を「売上にかかる消費税の3割」にできます(=仕入税額を売上税額の7割とみなす)。届出は不要で、確定申告書に付記するだけです。基準期間の課税売上が1,000万円以下などの条件があります。2割特例(2割)より負担は重くなります。法人に3割特例はありません。
Q. みなし仕入率は業種でどう違いますか?
簡易課税のみなし仕入率は、第1種(卸売業)90%、第2種(小売業・農林漁業の飲食料品)80%、第3種(製造業・建設業・農林漁業)70%、第4種(飲食店業や加工賃などの役務提供)60%、第5種(サービス業・運輸通信・金融保険)50%、第6種(不動産業)40%です。自分の業種が分からなければ、シミュレーターで業種を選べば自動で判定できます。
まとめ:締切を知り、届出を逆算する
2割特例の「次」は、簡易課税の届出をしなければ本則課税が既定になります。まずやるべきは、自分の終了時期を知ること。個人は令和8年分まで(そのあと令和9・10年は3割特例)、法人は令和8年9月30日を含む事業年度まで。そのうえで、仕入が少ない業種なら簡易課税、大きな設備投資があるなら本則課税が目安です。簡易課税を選ぶなら、個人は年末、法人は期末という届出の締切から逆算して動きます。
制度の詳しい要件はインボイスに登録すべきか・適格請求書の仕組み・2026年度税制改正で確認できます。最後はシミュレーターで3方式を比べて、自分の締切までに決めてください。
