2026年度 税制改正 完全解説|中小企業が押さえる法人税改正
【ご注意】本記事は2026年5月時点で公表されている「令和8年度税制改正大綱」(2025年12月19日 与党公表 / 12月26日 閣議決定)および関連法令案・各省庁資料に基づきます。最終的な改正法は国会審議を経て施行されるため、適用判定にあたっては必ず顧問税理士および国税庁・財務省の最新資料(財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」)を併用してください。
1. 2026年度税制改正のここがポイント
令和8年度税制改正大綱は2025年12月19日に自民・公明の与党により公表され、続く12月26日に閣議決定されました。物価高への対応、設備投資の促進、防衛財源の確保という3つの背景がある中で、中小企業の経営者が押さえるべき論点は実は多くありません。本記事ではその中から「いまの利益・キャッシュフローに直接効くもの」に絞って4本を取り上げます。
全体像として、施行スケジュールは次のとおりです。少額減価償却資産・防衛特別法人税・大胆な投資促進税制は2026年4月1日以後に開始する事業年度から、賃上げ促進税制の大企業向け措置は2026年3月31日で廃止、中堅企業向けは1年の経過措置を挟んで2027年3月31日で見直しとなります(出典: 経済産業省「令和8年度 経済産業関係 税制改正について」)。
影響を受ける企業像は大きく2つに分かれます。(A)経常的に小型設備を入れ替える従業員数十人規模の中小法人は少額減価償却の40万円拡大が最も効きます。一方、(B)直近3期で安定的に黒字を出していて基準法人税額が500万円を超えている中小法人は防衛特別法人税の追加負担を真剣にシミュレーションする必要があります。多くの小規模事業者は(A)の恩恵だけ受けて(B)はほぼ無関係、という整理になります。
2. 中小企業に直接効く: 少額減価償却資産 30万→40万への引き上げ
中小企業者等が取得する減価償却資産については、長らく「30万円未満なら年間合計300万円までを一括損金算入できる」という特例(措置法67条の5)が運用されてきました。令和8年度税制改正では、この取得価額の閾値が30万円未満から40万円未満へと引き上げられます。物価上昇と設備価格の高騰を背景にした実質的な拡充です(出典: 財務省「令和8年度税制改正の大綱(3/9)」、経理ドリブン)。
ただし、無条件の拡充ではなく次の2点の追加要件が入りました。(1)年間合計300万円の上限は据え置き。(2)対象から常時使用する従業員数が400人を超える法人が除外されます。実質的な恩恵が「中小〜中堅の境界より下」に集中する設計です。適用期限は3年延長され、2026年4月1日以後に取得した資産から適用となります。
試算をテーブルでも整理します。
| 項目 | 現行(30万円未満) | 改正後(40万円未満) | 差分 |
|---|---|---|---|
| 対象資産の取得価額上限 | 30万円未満 | 40万円未満 | +10万円 |
| 年間合計の上限 | 300万円 | 300万円 | 据え置き |
| 対象法人の従業員制限 | 常時使用従業員500人以下 | 常時使用従業員400人以下 | −100人 縮小 |
| 適用期限 | 2026/3/31まで | +3年延長 | 2029/3/31まで |
| 35万円PC1台の初年度損金 | 87,500円(4年定額) | 350,000円(全額) | +262,500円 |
実務上の注意点が1つあります。2026年3月31日までに取得した30万円台後半の設備は、従来どおり通常の減価償却扱いになります。買い替えのタイミングを4月以降に調整できるなら、それだけで初年度のキャッシュアウト圧縮効果が出ます。逆に駆け込みで2026年3月までに買う合理性は、よほど納期が読めない案件以外には薄い、というのが筆者の見立てです。
3. 賃上げ促進税制の変更(中小5年繰越維持、中堅は強化)
賃上げ促進税制は近年ほぼ毎年見直されていますが、令和8年度改正では大企業向け措置の廃止と中堅企業向け要件の引き上げという、企業規模で扱いを大きく変える構造になりました(出典: AGSコンサルティング、中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制」)。
中小企業オーナーが押さえるべきポイントは3つです。(1)中小企業向けの基本制度は引き続き利用可能。賃上げ要件(雇用者給与等支給額の前年度比1.5%以上または2.5%以上の増加)と上乗せ要件(教育訓練費・くるみん/えるぼし)の組み合わせは大筋維持されます。(2)5年繰越は維持。赤字で当期に控除しきれない金額を最大5年間繰り越せる中小特有の措置はそのままです。(3)教育訓練費の上乗せ措置は廃止予定。この影響で最大控除率は45%から35%へ下がります。研修投資を強化していた会社にとっては実質的な減税幅の縮小です。※この「35%」は教育訓練費上乗せが廃止された後の最大値であり、くるみん・えるぼし等の子育て/女性活躍に係る上乗せ(+5%)は別枠で従来どおり利用可能です。
中堅企業(従業員2,000人以下)については、賃上げ要件が現行の3%以上から4%以上に引き上げられた上で1年間の経過措置が設けられ、2027年3月31日まで継続します。大企業向けは2026年3月31日で廃止、というのが全体構造です。
4. 防衛特別法人税の新設(基準法人税額−500万円 × 4%)
2026年4月1日以後に開始する事業年度から、法人税の付加税として防衛特別法人税が新設されます。計算式はシンプルで、(基準法人税額 − 500万円) × 4%です(出典: freee「防衛特別法人税とは?」、国税庁パンフレット)。
ここで言う「基準法人税額」は、外国税額控除や所得税額控除などの税額控除を差し引く前の金額です。500万円という基礎控除が中小企業への配慮として効くため、基準法人税額500万円以下の法人は実質的に納税額0円となります。所得ベースで考えるとおおむね年所得約2,150万円(法人税率23.2%で逆算)以下の会社は影響を受けない計算です。
| 基準法人税額 | 計算式 | 追加負担(年額) | 該当する会社の規模感 |
|---|---|---|---|
| 300万円 | (300−500)×4% → 0 | 0円 | 所得約1,300万円・小規模法人 |
| 500万円 | (500−500)×4% | 0円 | 所得約2,150万円・閾値 |
| 1,000万円 | (1,000−500)×4% | 20万円 | 所得約4,300万円・安定黒字の中小 |
| 3,000万円 | (3,000−500)×4% | 100万円 | 所得約1.3億円・中堅 |
注意点として、納税額がゼロでも申告書の提出は必要になります。500万円ラインを下回っているからといって申告を省略すると無申告加算税の対象になりかねないため、顧問税理士との事前すり合わせが必須です。また個人事業主に対する防衛特別所得税は2027年からの開始が現時点で予定されていますが、これは別記事で扱います。
5. 投資促進税制(大胆な投資促進税制の創設)
令和8年度改正のもう一つの目玉が「大胆な投資促進税制」の新設です。生産性向上に資する大規模設備投資について、即時償却または7%の税額控除(中小企業は7%、中堅・大企業は4%が基本)を選択できる制度で、産業競争力強化法に基づく計画認定を受ける必要があります(出典: 山田&パートナーズ「大胆な投資促進税制の創設」、設備投資減税・選択ガイド)。
中小企業者等の場合の最低投資額は5億円以上。投資計画の年平均投資利益率15%以上が要件で、建物や構築物も対象に含まれます。令和11年3月末までに産業競争力強化法に基づく計画確認を受け、その確認日から5年以内に設備を取得・事業供用する流れになります。
5億円という閾値は小規模事業者には縁遠い数字ですが、製造業・物流・宿泊業など装置産業の中小法人にとっては検討に値する内容です。従来からの中小企業投資促進税制(7%税額控除 or 30%特別償却、適用期限2027年3月末)も継続するので、規模に応じて使い分けることになります。
6. 中小経営者のアクションリスト(施行前に何をすべきか)
ここまでの4論点を踏まえ、中小企業の経営者が2026年4月施行に向けて取るべき具体アクションを5つに整理します。
- 影響範囲の特定(まず1時間で済む): 顧問税理士と直近3期の決算書を眺めながら、基準法人税額・賃上げ実績・設備投資計画の3点を棚卸し。4論点のうち自社が触れるのはどれか、まず線を引く。
- 設備購入時期の調整: 30万円台後半〜40万円未満の設備を購入予定なら、可能な限り2026年4月以降にずらす。理由は本文2章のとおりで、これだけで初年度に210万円規模の損金前倒し効果が出るケースがある。
- 防衛特別法人税のシミュレーション: 基準法人税額500万円超の年度がある場合、(基準額−500万)×4%を予算に織り込む。配当・役員報酬・設備投資のタイミングで利益水準が変動する会社は、所得圧縮と防衛税の損益分岐点を意識する。
- 賃上げ・教育訓練費の前倒し: 教育訓練費の上乗せ措置は廃止予定なので、2026年3月期内に研修投資を前倒しできるかを検討する。同時に、中小企業向けの5年繰越特例は維持されるため、赤字決算でも申告で控除枠を確保しておく。
- 大型設備投資の早期判定: 5億円以上の大規模設備投資を中期計画に持っているなら、新・大胆な投資促進税制の対象になるか産業競争力強化法ベースで確認。即時償却と7%税額控除のどちらが自社に効くかを顧問税理士と試算する。
上記5つのうち、もっとも腰が軽く、もっとも実効性があるのは(2)の設備購入時期調整です。中小経営者の多くがまず手を付けるべきは、ここから始めるのが現実的だと思います。
7. 関連記事
税制改正と並行して読んでおくと判断が早まる関連記事を3本紹介します。
- 個人事業主が法人成りすべきタイミング — 防衛特別法人税の閾値や賃上げ促進税制を踏まえ、法人化判断はより精緻になります
- 資本金増資の手順と必要書類 — 投資促進税制の適用に伴う資本政策と合わせて検討するときの実務手順
- Claude for Small Business 完全解説 2026 — 税制改正対応に伴う経理・申告業務の効率化を検討する経営者向け
よくある質問(FAQ)
Q. 2026年度税制改正はいつから適用されますか?
令和8年度税制改正大綱は2025年12月19日に与党、12月26日に閣議決定されました。主要な法人税改正は2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。防衛特別法人税も同日から適用、賃上げ促進税制の大企業向け措置は2026年3月31日で廃止されます。
Q. 少額減価償却資産の40万円への引き上げで何が変わりますか?
中小企業者等が取得する減価償却資産について、即時損金算入できる取得価額の上限が現行の30万円未満から40万円未満に引き上げられます。年間合計300万円までという枠は据え置きです。一方で、対象法人から「常時使用する従業員数が400人を超える法人」が除外され、適用期限は3年延長されました。2026年4月1日以後の取得から適用されます。
Q. 防衛特別法人税はすべての法人に課されますか?
原則としてすべての内国法人・外国法人が対象ですが、課税標準は「基準法人税額−500万円」に4%を乗じる仕組みのため、基準法人税額が500万円以下の法人は実質的に納税額が0円となります。500万円という基礎控除は中小企業への配慮として設けられています。ただし、納税額0円でも申告書の提出は必要なので注意が必要です。
Q. 賃上げ促進税制の中小企業向け恩恵は維持されますか?
中小企業向けの基本制度は令和8年度改正では大きな変更がなく、控除しきれない金額を5年間繰り越せる特例も維持されています。一方で、教育訓練費の上乗せ措置は廃止される予定で、最大控除率は従来の45%から35%に引き下がります。大企業向けは2026年3月31日で廃止、中堅企業向け(従業員2,000人以下)は賃上げ要件が3%以上から4%以上に引き上げられた上で2027年3月31日まで継続します。
Q. 中小経営者が今すぐすべき準備は何ですか?
(1)2026年3月末までに駆け込みで30万円台後半の設備を買わず、40万円未満まで対象が広がる4月以降にずらす検討、(2)防衛特別法人税の影響シミュレーション(基準法人税額500万円超の場合のみ実質負担)、(3)賃上げ計画の前倒し検討と教育訓練費上乗せ措置廃止前の活用、(4)大型設備投資を検討中なら新・大胆な投資促進税制(投資額5億円以上で即時償却または7%税額控除)の対象になるか顧問税理士に確認、の4点が中小経営者の優先アクションです。
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