賃上げ促進税制 中小企業2026|令和8年度改正と繰越控除
Editorial / 税制改正・法人税

賃上げ促進税制 中小企業2026|令和8年度改正と繰越控除

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「賃上げ促進税制は大企業の話で、うちのような小さな会社には関係ない」。そう思って毎年の決算でスルーしていた経営者が、後から「使えたのに」と気づくケースは少なくありません。実際には、この制度は中小企業者等こそ手厚く設計されています。給与を前年より増やすという、多くの会社がいずれやることに対して、増加額の15%〜が法人税から戻ってくる仕組みだからです。

しかも令和6年度の改正で、中小企業には 繰越控除 という強力な仕組みが加わりました。これにより、まだ利益が出ていない設立初期の会社でも、賃上げした事実を「使える権利」として最大5年間ストックできるようになっています。

本記事では、令和8年度(2026年度)税制改正を踏まえて、賃上げ促進税制の中小企業向け措置を整理します。「いくらの賃上げで、いくら戻るのか」「赤字でも本当に使えるのか」「改正で何が変わるのか」を、設立0〜3年目の小規模法人の目線で解きほぐします。改正全体の俯瞰は 2026年度税制改正のポイント に譲り、ここでは賃上げ税制と繰越控除を深掘りします。

【重要】 本記事は2026年6月時点で公表されている令和8年度税制改正法および中小企業庁・国税庁・経済産業省の公開情報に基づく一般情報です。控除率の内訳・上乗せ要件・適用期限の細目は政省令や運用で変わることがあり、自社が「中小企業者等」に当たるかの判定や具体的な控除額の計算は事業年度の状況によって異なります。適用にあたっては顧問税理士・所轄税務署の最新情報を必ず確認してください。

① 賃上げ促進税制とは — 「給与を増やすと法人税が減る」仕組み

賃上げ促進税制は、企業が従業員への給与を前年度より増やした場合に、その増加額の一定割合を法人税額(個人事業主は所得税額)から直接控除できる制度です。所得控除ではなく 税額控除 なので、節税効果がそのまま手取りに効きます。

企業規模によって「大企業向け」「中堅企業向け」「中小企業向け」の3区分があり、中小企業者等(原則、資本金または出資金1億円以下の法人など。一定の大規模法人の子会社等を除く)は最も要件が緩く、控除率も手厚く設計されています。

設立0〜3年目の会社にとって重要なのは、この制度が「特別なことをしなくても、従業員の給与を前年より上げれば対象になりうる」点です。初めての昇給や、人を増やして給与総額が伸びた年が、そのまま適用のチャンスになります。

② 中小企業向けの控除率 — 基本15%、最大45%(改正後35%)

中小企業向けの控除は、基本要件と上乗せ要件の組み合わせで決まります。控除率の構造は次のとおりです(令和8年3月31日までに開始する事業年度=改正前ベース)。

区分要件(前年度比)控除率(増加額に対して)
基本雇用者給与等支給額が 1.5%以上増加15%
上乗せ①賃上げ2.5%以上増加+15%(計30%)
上乗せ②教育訓練費教育訓練費が前年度比5%以上増加 等+10%(※改正で廃止)
上乗せ③両立支援・女性活躍くるみん以上、またはえるぼし2段階目以上の認定+5%
すべて満たす場合最大45%(改正後は35%)

出典:国税庁「No.5927-2 中小企業者等における賃上げ促進税制」、中小企業庁。

控除額には「当期の法人税額の20%まで」という上限があり、上限を超えた分が次章の繰越控除につながります。要件をすべて満たすと、改正前は最大45%、後述する令和8年度改正後は最大35%(15%+15%+5%=35%)に到達します。

③ 令和8年度(2026年度)改正で何が変わるのか

令和8年度税制改正では、賃上げ促進税制の重心が中小企業に絞り込まれます。大企業向けは令和8年4月1日以降に開始する事業年度から1年前倒しで廃止され、中堅企業向けも適用期限(令和9年3月末までに開始する事業年度)の到来で廃止されます。中堅向けは期限までの間も賃上げ要件が厳格化され、標準的な上乗せ要件が前年度比3%から4%以上に引き上げられます。

中小企業向けは制度そのものは継続します。ただし 教育訓練費の上乗せ(+10%)が廃止 され、最大控除率が45%から35%に下がります。くるみん・えるぼしの+5%上乗せは存続します。

政策の重心が中小企業に寄る改正であり、中小企業にとっては引き続き使える制度です。一方で、これまで教育訓練費の上乗せをあてにしていた会社は、改正後(令和8年4月1日以降に開始する事業年度)は上乗せが使えなくなるため、基本15%+賃上げ2.5%上乗せ15%+くるみん/えるぼし5%=最大35%として賃上げ計画を組み直す必要があります。

④ 最大の武器「繰越控除」 — 赤字フェーズの設立初期こそ効く

中小企業向け賃上げ促進税制の目玉が、令和6年度改正で導入された 5年間の繰越控除 です。

税額控除は「法人税額から差し引く」仕組みのため、赤字で法人税が発生しない年や、控除額が当期の上限(法人税額の20%)を超えた年は、本来そのままでは使えません。しかし中小企業の場合、当期に控除しきれなかった額を翌期以降5年間にわたって繰り越せます。

具体例で見る

設立2期目に給与総額を前年1,800万円から2,000万円に増やした会社(増加額200万円、増加率11%)を考えます。基本15%+賃上げ上乗せ15%=30%が適用できれば、控除額は最大で60万円。ところがこの期は赤字で法人税がゼロなら、本来この60万円は使えずに消えてしまいます。ここで繰越控除があれば、3期目に黒字化した年に、この60万円を法人税から差し引けます。賃上げをしただけで、将来の納税を先取りで圧縮できる計算です(金額はあくまで概算です)。

「赤字だから賃上げ税制は関係ない」が誤りなのは、この一点に尽きます。むしろ将来の黒字化を見越して先に賃上げしておく、という戦略が成り立ちます。

注意点が2つあります。1つは、繰越控除を使うには、控除しきれなかった年も含めて毎期きちんと適用判定と申告手続きを行い、必要書類を残しておくこと。もう1つは、繰り越した控除を実際に使う年度も、その年の雇用者給与等支給額が前年度より増加していること が必要な点です。賃上げをやめてしまうと、せっかくの繰越分を使えません。

⑤ 適用期限と手続き — いつまでに、何をするか

賃上げ促進税制(中小企業向け)の適用期限は、令和9年(2027年)3月31日までの間に開始する事業年度 です。決算期によって「あと何回適用できるか」が変わるため、自社の事業年度開始日で確認します。

手続きの流れはシンプルです。

  1. 前年度と当年度の雇用者給与等支給額を集計し、増加率(1.5%以上か、2.5%以上か)を確認する
  2. 上乗せ要件の該当を確認(改正後はくるみん・えるぼし認定など)
  3. 控除額を計算し、当期の上限(法人税額の20%)と比較。控除しきれない分は繰越額として把握する
  4. 法人税申告書の別表(別表6(24)など)に必要事項を記載して申告する。雇用者給与等支給額の明細など、計算の根拠書類を保存する

特別な事前申請は不要で、確定申告の中で適用するのが基本です。だからこそ「申告のときに初めて気づく/顧問税理士任せで内容を把握していない」状態になりやすく、賃上げのタイミングや繰越の管理を経営側が意識できているかどうかで、受けられる恩恵が変わります。

なお、賃上げをすると税額控除で戻る一方、社会保険料の事業主負担も増えます。「いくら戻るか」と「いくら出ていくか」は両方見ておくべきで、賃上げ後の給与総額と社会保険料は 給与計算シミュレーター で試算できます。

⑥ 賃上げ税制で取りこぼしやすいポイント

  1. 赤字だからと適用判定をしない:繰越控除があるため、赤字でも賃上げした年は書類を整える。判定を飛ばすと将来の控除権を失う
  2. 教育訓練費の上乗せを前提に賃上げ計画を組んでいる:改正後は教育訓練費の上乗せが使えない。基本+賃上げ+くるみん/えるぼしで最大35%として計算し直す
  3. 適用期限を意識していない:令和9年3月末までに開始する事業年度が対象。決算期次第で残り適用回数が違う
  4. 「中小企業者等」の判定を確認していない:資本金1億円以下でも、大規模法人の子会社などは対象外になる場合がある。自社が要件を満たすか先に確認する

⑦ 結論:賃上げした年は黒字・赤字を問わず書類を整える

賃上げ促進税制は、給与を前年より増やすという多くの会社がいずれ通る行動に、増加額の15%〜最大45%(令和8年度改正後は最大35%)の税額控除で報いる制度です。令和8年度改正で大企業向けが前倒し廃止される一方、政策の重心が中小企業に寄り、中小向けは引き続き使えます。設立初期の会社にとって最大の武器は5年間の繰越控除で、赤字の年の賃上げ実績も将来の黒字化時に活かせます。

まず何から? 鍵は、黒字・赤字を問わず賃上げした年は適用判定と書類整備をしておくこと。適用期限は令和9年3月末までに開始する事業年度です。採用や昇給の前提は 初めての社員雇用 完全ガイド 2026、賃上げ原資の資金調達は 日本政策金融公庫 創業融資 2026、年末の給与実務は 年末調整の進め方 2026 を参照してください。

よくある質問(FAQ)

Q. 賃上げ促進税制は中小企業でも使える?

使えます。中小企業者等向けは要件が緩く控除率も手厚く、前年度比1.5%以上の給与増加から対象になります。

Q. 赤字でも適用できる?

当期は法人税が出ないため控除できませんが、中小企業は控除しきれない分を5年間繰り越せます。賃上げした年は赤字でも適用判定と書類整備をしておきます。

Q. どのくらい税金が減る?

基本で給与増加額の15%、上乗せ要件をすべて満たすと最大45%(令和8年度改正後は最大35%)。控除額は当期法人税額の20%が上限で、超過分は繰越対象です。

Q. いつまでの制度?

中小企業向けは令和9年(2027年)3月31日までの間に開始する事業年度が適用対象です。決算期で残り適用回数が変わります。

Q. 改正で中小企業の控除率は下がる?

教育訓練費の上乗せ(+10%)が廃止され、最大控除率が45%から35%になります。基本15%・賃上げ上乗せ15%・くるみん/えるぼし5%は存続します。

Q. 特別な申請は必要?

事前申請は不要で、法人税の確定申告の中で適用します。計算根拠の書類を保存しておきます。