社員10人未満の会社が最初に守る5つのルール|違反事例と「最小コンプラ体制」の作り方
「大企業のような立派なコンプラ体制はいらない」。これは本当です。でも「だから何もしなくていい」は間違いです。
小さな会社ほど、たった1件の違反で会社が傾きます。大企業には法務部があり、専任の担当が日々チェックしています。あなたの会社は、誰がそれをやっていますか。この記事は、社員数名の会社が「まず何を守り、何から整えるか」を、実際に行政処分を受けた事例とともに、最小の形で示します。
【重要】 本記事は2026年7月時点の各機関の公表情報に基づき、一般的な考え方を整理したものです。行政処分・件数・法令の要件は変更されることがあります。自社の個別のケースは、社会保険労務士・弁護士にご相談ください。
なぜ、小さい会社ほど危ないのか
コンプライアンス違反のダメージは、会社の規模に反比例します。大企業なら一部門の不祥事で済むところが、数名の会社では1件の勧告や社名公表で、取引も採用も止まります。
行政処分は、多くが企業名を公表します。「〇〇社が勧告を受けた」「送検された」という情報は検索に残り、取引先の与信や、これから入る人の会社選びに直接効いてきます。売上を作る前に信用を失うのが、小さな会社にとっての一番の痛手です。
しかも、以下で見る違反はどれも「規模が小さいから見逃される」ものではありません。むしろ、仕組みも人手も足りない小さな会社ほど、無防備なまま踏んでしまいます。
まず、自社が該当する分野を知る
守るべきルールは山ほどありますが、設立直後の会社がまず見るべきは次の4象限です。自社が「該当する条件」に当てはまるかで、優先度を判断してください。
| 分野 | 該当する会社 | 主なルール |
|---|---|---|
| 労務 | 人を雇っている | 残業代・最低賃金・労働時間の記録・ハラスメント防止 |
| 外注 | フリーランス・個人に発注する | 発注時の書面明示・60日以内の支払い(フリーランス新法) |
| 表示 | 広告・宣伝をする | 広告なら「PR」を明示(ステマ規制)・景品表示法 |
| 情報 | 顧客・従業員の情報を持つ | 安全管理措置・漏えい時の報告(個人情報保護法) |
ほとんどの会社は「労務」と「外注」に最初に該当します。そこから見ていきます。
実際の違反事例:これは規模を問わず起こる
労務:残業代不払い・サービス残業で社名公表
もっとも件数が多く、もっとも送検されやすいのが労務です。定期賃金の不払い、サービス残業(賃金不払残業)、違法な長時間労働は、厚生労働省が「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として、送検した企業名と違反内容を公表しています。
小さな会社でありがちなのが「みなし残業だから残業代は払わなくていい」「うちは裁量労働」といった思い込みです。労働時間を記録し、割増賃金を払い、毎年10月の最低賃金改定額を確認する。この3つが最初の防波堤になります。
外注:フリーランスへの発注書を出さず勧告
2024年11月に施行されたフリーランス新法では、フリーランス(個人)に業務委託するとき、給付内容・報酬額・支払期日などを書面や電子メールで直ちに明示し、報酬は受領日から60日以内に支払う義務があります。
施行から1年で、公正取引委員会は小学館・光文社に施行後初の勧告を出し(社名公表)、さらに放送業・広告業を集中調査して128社に是正指導を行いました。いちばん多い違反は「発注書を出していない」「口約束のまま」という、規模を問わない初歩です。フリーランスに1回でも発注するなら、発注時の書面(3条書面)と60日以内の支払いは必須です(→ 業務委託契約のチェックリスト)。
表示:口コミ割引・PR無表示で措置命令
2023年10月から、広告なのに広告と分からない表示(ステルスマーケティング)は景品表示法違反になりました。実際に、Googleマップに★4〜5の口コミを投稿することを条件にワクチン接種費を550円割引したクリニックが、ステマ規制で初の措置命令を受けています(2024年6月)。また、対価を払ってインフルエンサーに投稿させ、それを一般の口コミのように自社サイトへ転載した事例(chocoZAP)も、2件目の措置命令の対象になりました。
小さな会社でも、「割引と引き換えに高評価レビューを頼む」「知人やインフルエンサーに宣伝投稿を頼む」は直撃します。広告や依頼した投稿には「PR」「広告」を明示し、便宜供与と引き換えのレビュー依頼はしないことです。
外注(発注側):下請けへの無償作業の押し付け
自社が「発注する側」に回ると、今度は下請法の対象になります。使い終わった金型や車両を長期間タダで保管させるといった「不当な経済上の利益提供要請」で、勧告は2024年度に21件(平成以降で最多)、2025年度は39件とさらに最多を更新しました。買いたたき・減額・無償作業の押し付けは、勧告=社名公表につながります。
情報:安全管理措置の不備
個人情報の漏えい等の報告件数は、令和6年度に過去最多(前年比約57%増)となりました。個人情報保護委員会は、中小規模の事業者の多くで安全管理措置が不十分(情報の管理台帳がない、点検していない)と指摘しています。「うちは小さいから狙われない」がいちばん危険です。台帳・アクセス管理・委託先管理という地味な措置と、漏えい時の報告期限を知っておくことが要ります。
最小のコンプラ体制は「4点」
では、何を整えればいいか。数名の会社なら、次の4点で十分に骨格ができます。
- 就業規則(または最低限の社内ルール):常時10人以上を雇うと就業規則の作成・届出が義務です(労働基準法。違反は30万円以下の罰金)。10人未満なら就業規則の義務はありませんが、その場合でも労働条件通知書の交付と、ハラスメントの相談窓口は規模に関係なく必要です。「うちは10人未満だから何も要らない」は誤解です(→ 就業規則の作り方)。
- 行動規範(やってはいけないことの一覧):ステマ・情報持ち出し・ハラスメントなど「これはダメ」を1枚にまとめて共有します。
- 相談窓口:「困ったら〇〇へ」を決めて全員に伝えるだけでも成立します。
- 年1回の教育:上の違反事例をそのまま教材に、短い研修をやります。
何から始めるか(時間軸で)
一度に全部はできません。時間軸で分けます。
- 今日やる:自社が該当する象限(労務/外注/表示/情報)を確認する。フリーランスに発注しているなら発注書のひな型を用意する。
- 今月やる:労働時間の記録方法を決める。相談窓口の担当を決めて周知する。広告に「PR」表示のルールを作る。
- 半年で整える:就業規則(10人以上なら必須)・行動規範・年1回の研修を形にする。
よくある質問(FAQ)
Q. 小さい会社でもコンプライアンスは必要ですか?
必要です。大企業のような立派な体制は不要ですが、規模が小さくても法令違反は行政処分の対象になります。フリーランスへの発注書を出さず勧告を受けた会社、口コミ割引と引き換えに高評価を集めて措置命令を受けたクリニック、残業代不払いで社名を公表された会社があり、いずれも規模ではなく「やっていなかった」ことが原因です。
Q. まず何から手をつければいいですか?
着手の順番は、①労務(残業代・最低賃金・ハラスメント)②外注時の書面明示(フリーランス新法)③表示(広告なら「PR」明示・ステマ規制)④個人情報、の順が現実的です。人を雇っていれば①、フリーランスに発注していれば②が最初に効きます。自社が該当する分野から優先して整えます。
Q. 就業規則は10人未満でも作らないといけませんか?
常時10人以上を雇う場合に就業規則の作成・届出が義務です(労働基準法。違反は30万円以下の罰金)。10人未満なら就業規則の作成義務はありませんが、労働条件通知書の交付や、ハラスメントの相談窓口の設置は規模に関係なく必要です。「10人未満だから何も要らない」は誤解です。
Q. コンプライアンス違反が公表されるとどうなりますか?
行政処分(勧告・命令・送検など)の多くは企業名が公表されます。「◯◯社が勧告を受けた」「送検された」という情報は検索に残り、取引先の与信や採用に影響します。小さな会社では、売上を作る前に信用を失うことが最大の痛手になります。
まとめ
小さな会社のコンプライアンスは、「立派な体制」ではなく「まず何を守るか」の優先順位です。着手は労務(残業代・最賃・ハラスメント)→ 外注(書面明示)→ 表示(PR明示)→ 情報の順。どれも規模ではなく「やっていない」ことが処分の原因でした。
まずは自社の該当象限を確認し、発注書・労働時間の記録・相談窓口という、その日から動かせるものから始めてください。就業規則は就業規則の作り方、外注は業務委託契約のチェックリスト、表示と個人情報はプライバシーポリシーの作り方もあわせてどうぞ。
参考にした公表事例・一次情報
- フリーランス新法:公正取引委員会(勧告・是正指導事例)
- ステマ規制:消費者庁(措置命令事例)
- 下請法:公正取引委員会(勧告 令和6年度21件・令和7年度39件)
- 労働基準法:厚生労働省「労働基準関係法令違反に係る公表事案」/個人情報:個人情報保護委員会 年次報告(令和6年度 漏えい報告 過去最多)
※行政処分・件数は各機関の公表情報に基づきます。自社の個別判断は社会保険労務士・弁護士にご相談ください。
