就業規則の作り方 2026|10人未満でも作るべき理由と届出の手順
賃金・残業・退職でトラブルが起きてから「うちには就業規則が無い」と気づく——これが小規模事業者で最も多い後悔です。設立直後は口頭やなんとなくの運用でも回りますが、もめた瞬間に拠り所となるルールが無いと、会社も従業員も守れません。しかも 常時10人以上を雇えば、就業規則の作成・届出は法律上の義務 になります。トラブルが起きてからでは遅い、というのが就業規則の本質です。
本記事は、初めての社員雇用・36協定(残業)・社会保険と続く労務シリーズの“土台”として、就業規則を 「いつ・どう作り・どう届け出るか」 を設立0〜3年目の小規模事業者向けに整理します。
【重要】 本記事は2026年5月時点の法令・厚生労働省公開情報に基づきます。記載事項・手続・モデル就業規則の版(最新は令和7年12月版)は変更されることがあるため、作成前に厚生労働省・所轄の労働基準監督署の最新情報を確認してください。自社の実態に合わせた個別判断は社会保険労務士にご相談を。
① 就業規則とは — 会社の「ルールブック」
就業規則とは、労働時間・賃金・休日・退職など、その事業場で働く全員に共通して適用される労働条件とルールを文書にしたものです。個々の労働契約より広く、「会社全体の最低ライン」 を定めます。
重要なのは、労働契約が就業規則を下回る部分は、就業規則の基準まで自動的に引き上げられる という効力(労働契約法12条の最低基準効)。だからこそ、内容をきちんと整えておくことが会社を守ることにつながります。
② 就業規則は何人から義務?(労基法89条)
常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則の作成・届出が義務です。
「常時10人以上」の数え方
- パート・アルバイト・契約社員も「労働者」として数える(正社員1人+パート9人でも該当)
- 「常時」=繁忙期の一時的な増加は除き、通常の状態で10人以上かで判定
- 判定は会社単位ではなく「事業場単位」。本社・各店舗それぞれで10人以上かを見る
- 派遣社員は、派遣先ではなく 派遣元の人数 に数えるのが原則
10人未満の事業場は?
作成・届出の義務はありませんが、任意で作成・届出できます(労基署も受理)。作るメリットは、労使トラブルの防止、従業員の安心感、管理の効率化。少人数こそ、もめた時に「ルールが無い」状態を避けられる価値が大きいです。
罰則
作成・届出義務違反、意見聴取義務違反、記載不備などは、労基法120条により30万円以下の罰金の対象です。
③ 何を書くか — 記載事項3種類
絶対的必要記載事項(必ず書く)
- ① 労働時間関係:始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇(年次有給休暇を含む)、交替制の場合の就業時転換
- ② 賃金関係:賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払時期、昇給
- ③ 退職関係:退職に関する事項(解雇の事由を含む)
相対的必要記載事項(定めをするなら必ず書く)
退職手当/賞与など臨時の賃金/食費・作業用品の労働者負担/安全衛生/職業訓練/災害補償/表彰・制裁/その他、全労働者に適用される定め。
任意的記載事項
上記以外で、法令・労働協約に反しない範囲で自由に書けるもの(企業理念、服務規律の詳細など)。
④ 作り方の手順(4ステップ)
- 作成:絶対的記載事項を軸に原案を作る(モデル就業規則を土台に自社実態へ修正)。
- 意見聴取(労基法90条):過半数労働組合、なければ過半数代表者の 意見を聴き、意見書を添付。※ 「意見を聴く」だけでよく、同意・合意は不要です。反対意見が出ても、その意見書を添えれば届出は受理されます。ただし反対を無視して一方的に不利益な内容にするのは別問題なので、内容面の配慮は必要です。
- 届出:所轄の 労働基準監督署 へ届出。変更時も届出が必要。e-Govで電子申請も可能(各事業場の規則内容が同一など一定の要件のもとで「本社一括届出」も可)。
- 周知(労基法106条):掲示・備付け・書面交付・社内ネットワーク等で全従業員に周知。※ ここでの周知とは、従業員が知ろうと思えばいつでも見られる状態にすること。周知して初めて効力が生じます。作成・意見聴取・届出だけでは効力は発生しません(フジ興産事件・最高裁平成15年10月10日)。
⑤ 過半数代表者は誰を選ぶ?(36協定と同じ要件)
就業規則の意見聴取に必要な過半数代表者は、36協定と同じ要件で選びます。
- 代表者本人は管理監督者ではNG。ただし、過半数を計算する母数の「全労働者」には管理監督者も含めて数える
- 投票・挙手など 民主的手続きで選出されること
- 使用者(社長)の意向で選出された者でないこと(社長指名・親睦会代表の自動就任などは不適正)
選び方を誤ると手続きが無効と判断されうるため、36協定の作り方 の過半数代表者の項も併せて確認してください。
⑥ モデル就業規則の活用と注意
厚生労働省が モデル就業規則(最新は令和7年12月版) を無料で公開しています。Word/PDFでダウンロードでき、規程例と解説が付いているので、ゼロから書くより圧倒的に速く土台が作れます。
⑦ 近年の改正で反映すべき点(2024〜2026)
- パワハラ防止方針の明記:2022年4月から中小企業も義務化(すでに施行済み。未対応なら今すぐ)。「パワハラを行ってはならない」旨と行為者への対処方針を、就業規則等の文書に規定し周知することが必要。
- 2024年4月 労働条件明示ルール改正:就業場所・業務の「変更の範囲」、有期契約の更新上限、無期転換申込機会などの明示が追加。これは 就業規則の記載義務そのものではなく、労働条件明示(労働条件通知書)のルール ですが、内容を就業規則と整合させておくと実務上スムーズです。
- 別規程にすることが多いもの:育児・介護休業規程、ハラスメント防止規程、賃金規程、退職金規程、定年・継続雇用規程など。
- フリーランス・業務委託は対象外:真の業務委託(労働者でない者)は就業規則の対象外。ただし「名ばかり業務委託」で実態が労働者なら労基法等が適用されます(業務委託と雇用契約の違い 参照)。
⑧ 小規模事業者がやりがちな失敗
ひな形・モデル就業規則を実態と乖離したまま流用
自社にない手当・制度が残り、逆にトラブルの種に。「書いてあるのに運用していない」が一番危険。
意見聴取(意見書添付)を省く
90条違反で届出不備。過半数代表者の意見書は届出の必須添付書類。
周知しない
効力が生じず、いざという時に「ルールが無い」のと同じ状態に。
変更したのに届け出ない
変更時も届出義務あり。賃金・休日などを変えたら、その都度 意見聴取→届出→周知。
「10人未満だから不要」と作らない
賃金・退職でもめた時にルール不在で困る。少人数のうちに作っておくほど後が楽。
⑨ 結論:従業員が増える前に「土台」を作る
- 10人に近づく前に原案を準備(モデル就業規則を自社向けに修正)
- 過半数代表者を適正に選び、意見聴取 → 労基署へ届出
- 全従業員へ周知し、改正のたびに見直し・再届出
まず何から? 厚生労働省の モデル就業規則(令和7年12月版)をダウンロード し、自社にあてはまらない条文を削る/数字を自社の制度に書き換えるところから始めるのが最短です。
複雑な手当設計や近年の法改正反映は、社会保険労務士に相談すると安全です。残業ルールは 36協定の作り方 2026、社会保険の今後の負担増は 社会保険適用拡大2027-2035、雇用全般は 初めての社員雇用 完全ガイド 2026 を参照してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 従業員が10人未満でも就業規則は必要?
法的義務はありませんが、賃金・残業・退職などのトラブル防止のため作成が推奨されます。任意で労基署へ届け出ることも可能です。
Q. パートやアルバイトも10人に数える?
数えます。正社員1人+パート9人でも常時10人以上で義務対象。派遣社員は派遣元の人数に数えるのが原則です。
Q. 就業規則は会社単位?事業場単位?
事業場(店舗・拠点)単位で判定・作成・届出します。内容が同一なら一定要件で本社一括届出も可能です。
Q. 過半数代表者の同意がないと届け出られない?
同意は不要です。意見を聴いて意見書を添付すれば、反対意見でも届出は受理されます(労基法90条)。
Q. 届け出れば効力が生じる?
いいえ。従業員へ周知して初めて効力が生じます(フジ興産事件・最高裁平成15年10月10日)。
Q. モデル就業規則をそのまま使っていい?
不可。厚労省も「実情に応じて作成」と明記しています。自社の実態に合わせて必ず修正してください。
