Editorial / 労務・社会保険

社会保険適用拡大2027-2035|全企業が対象になる準備5ステップ

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【重要】 本記事は2026年5月時点の情報に基づきます。社会保険料率・適用拡大の運用詳細は将来変更される可能性があります。最新の情報は厚生労働省・日本年金機構の公式情報および社労士にお問い合わせください。

「うちは50人以下だから社会保険適用拡大は関係ない」——2024年10月の「51人以上」拡大を見送った中小企業の経営者がよく持っている認識ですが、2025年6月成立の年金制度改革法で、段階的に企業規模要件を撤廃するスケジュールが確定 しました。2027年10月の「36人以上」を皮切りに、2035年10月までに 全企業が短時間労働者の社会保険加入義務を負う ことになります。

加えて、2026年10月から「106万円の壁」(賃金要件月8.8万円以上)が撤廃 され、2029年10月から従業員5人以上の個人事業所も全業種で適用対象 に。これから新規開業する5人以上の個人事業所は、サービス業・農林水産業も含めて原則加入対象 になります(既存事業所は経過措置あり)。

本記事は、設立0〜3年目の小規模法人・個人事業主が、2027年10月の最初の節目を起点に 「いまから備える5つの準備」 を整理するためのガイドです。

初めての社員雇用全般は 初めての社員雇用 完全ガイド 2026、役員報酬の決め方は 役員報酬の決め方 完全ガイド 2026 を参照してください。本記事は 2027年以降の制度変更に向けた準備 に特化しています。

自社はいつ対象になるか — 節目年表マトリクス

あなたの会社の規模2024.10〜2026.10〜2027.10〜2029.10〜2032.10〜2035.10〜
51人以上✓対象✓対象✓対象✓対象✓対象✓対象
36〜50人★新規対象✓対象✓対象✓対象
21〜35人★新規対象✓対象✓対象
11〜20人★新規対象✓対象
10人以下★新規対象
個人事業所5人以上
(サービス業/農林水産業)
★新規対象
(新規開業)
✓対象✓対象

※ 規模は厚生年金被保険者数ベース。「★新規対象」が、その時点で初めて適用対象になる規模区分。「2026.10」列は企業規模要件は据置きで、賃金要件(月8.8万円以上)が撤廃される節目。

3秒で自社の節目年がわかります。続きを読む前にここを確認してください。

① 2025年改正で確定したスケジュール

2025年6月、国会で年金制度改正法が成立。短時間労働者の社会保険適用拡大について、企業規模要件の段階的撤廃スケジュール が確定しました。

企業規模要件の段階的撤廃(厚生年金被保険者数ベース)

時期各時点で新たに対象となる規模区分
2024年10月〜(現行)51人以上
2027年10月36人以上(36〜50人が新規対象)
2029年10月21人以上(21〜35人が新規対象)
2032年10月11人以上(11〜20人が新規対象)
2035年10月企業規模要件 撤廃(10人以下も対象)

出典:厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」、2025年6月成立 年金制度改正法。

同時に変わる賃金要件・適用対象

  • 2026年10月:賃金要件「月額8.8万円以上(年106万円)」が 撤廃 → 短時間労働者が 週20時間以上働けば、賃金額に関係なく加入対象
  • 2029年10月:従業員5人以上の 個人事業所も全業種で適用対象 に拡大。ただし2029年10月時点で既に存在している事業所は当分の間 経過措置の対象(適用除外)となる予定これから新規開業する5人以上の個人事業所は、サービス業・農林水産業を含めて原則加入対象(士業10士業は2022年10月から既に強制適用済み)

短時間労働者の加入要件(2035年10月以降の最終形)

次の要件をすべて満たす短時間労働者は、企業規模に関係なく社会保険加入対象になります:

  • 週の所定労働時間が 20時間以上
  • 雇用期間が 2ヶ月超 見込み
  • 学生でない

賃金要件・企業規模要件が消えた結果、実務上は『週20時間以上の所定労働時間か否か』が主な判定軸 になります(あわせて雇用期間2ヶ月超・学生でないも要件)。

② 人件費はどれだけ増えるか — 事業主負担16.5%の試算

社会保険料は 健康保険・厚生年金・介護保険が労使折半(事業主と従業員が半額ずつ)、雇用保険・労災保険は事業主の追加負担、加えて 2026年4月開始の「子ども・子育て支援金」(0.115%・事業主側) が乗ります。

事業主負担の内訳(2026年度想定)

  • 健康保険 9.9%程度 → 折半で事業主 約4.95%
  • 厚生年金 18.3% → 折半で事業主 9.15%
  • 介護保険 1.62%(40歳以上) → 折半で事業主 0.81%
  • 雇用保険 事業主側 0.95%程度(一般業種)
  • 労災保険 業種により0.25〜数%(事業主全額)
  • 子ども・子育て支援金 0.115%(事業主側、2026年4月開始)
  • 合計:事業主負担は給与額の約15〜16.5%(業種・年齢・地域で変動。40歳以上の従業員なら16.5%前後)

試算例:パート1名(週25時間勤務・月額10万円・40歳以上)が新規加入となる場合

項目月額年額
給与(月10万円)100,000円1,200,000円
事業主の社保負担増約16,500円約198,000円
本人の社保負担増約15,000円約180,000円
本人の手取り減約15,000円約180,000円

※ 事業主と本人の負担額が異なる理由:健康保険・厚生年金・介護保険は労使折半だが、雇用保険・労災保険・子ども・子育て支援金は事業主のみの負担。事業主側は折半分にこれら事業主専用負担が上乗せされるため、本人負担より約1,500円/月ほど多くなる。標準報酬月額・等級・40歳未満/以上・業種により実額は変動(概算ベース)。

パート5名なら年間約100万円の人件費増。10名なら約200万円。小規模事業者にとって決して小さくないインパクト です。

「106万円の壁」撤廃の影響(2026年10月〜)

これまで「年収106万円未満」で社保加入を回避していたパート従業員も、週20時間以上働けば対象になります。「働き控え」を解消する反面、事業主負担が一気に増える 構造です。

視点転換:社保完備は採用コストの一部

ここまで「コスト増」の論調で書きましたが、社保完備は40代主婦・シニア層・キャリア志向のパート人材に対する強い採用武器 でもあります。短時間労働者市場では、応募者が「社保あり」「社保なし」で求人を絞り込むケースが増えています。社保コストを 「採用コスト+定着コスト」の一部 として捉え直すと、節目年に向けた人件費試算の意味も変わります。

③ 「3年間の保険料調整措置」を活用する

2025年改正では、新規加入対象となる短時間労働者の負担を軽減する 「保険料調整措置」 が用意されています。事業主と従業員のどちらに有利な仕組みなのか、構造を正確に押さえることが重要です。

対象

  • 節目で新たに対象となった規模区分の事業所(例:2027年10月時点で36〜50人規模、つまり「従業員数50人以下」の範囲で新規対象化した事業者)
  • 新たに社会保険加入対象となった短時間労働者
  • 標準報酬月額が 12.6万円以下

仕組み(重要)

  • 利用するかどうかは事業主が選択 できる任意の措置
  • 事業主の負担割合を増やし、本人の負担を軽減する形(労使折半の比率を見直す)
  • 事業主が追加負担した分は 制度全体で支援(事業主の実質負担増にはならない仕組み)
  • 期間は3年間で、3年目は軽減割合を半減 し本則の労使折半に滑らかに戻す
  • 軽減を受けても 本人の将来の年金額は減らない(満額納付として扱われる)

つまり「従業員の手取りを守りながら、事業主の追加負担も国が支援する」3年間のソフトランディング設計です。

活用ポイント

節目で新規対象となる規模区分の事業主は、この3年間の調整措置を活かしつつ、本則化後の人件費水準に向けて経営計画を組む のが現実的な対応です。利用は任意なので、自社の人件費見通しと従業員説明のしやすさを天秤にかけて判断します。

④ 自社はいつ・どの程度影響を受けるか — 業種別シナリオ

自社がどのタイミングで影響を受けるかは、従業員数(厚生年金被保険者数)と業種 で決まります。

飲食・小売・サービス業(パート比率が高い業種)

→ 最も影響が大きい。現状すでに51人以上なら適用済 だが、これから51人を超える事業者は 2027年10月の「36人以上」ライン を意識する必要あり。「106万円の壁」撤廃により、シフト調整の発想自体を変える必要が出る。設立3期目で初めて「51人ライン」を意識する経営者は多いが、その時点で就業規則の遡及対応に追われるケースをよく見ます。

IT・コンサル・士業(フルタイム正社員中心)

→ パート・短時間労働者が少ない業種は影響は限定的。ただし副業人材・業務委託をパート雇用に切り替える運用を検討している場合は、社保コストを織り込んで判断する必要あり。士業10士業(弁護士・税理士・公認会計士・社労士・行政書士・司法書士・弁理士・公証人・海事代理士・土地家屋調査士)は2022年10月から既に強制適用

製造・物流(工場のパート活用)

→ パート比率が高ければ飲食・小売と同様。週20時間未満で複数パートを回している運用は、2026年10月以降は 「働き控え」の前提が崩れる ことを織り込んだシフト設計が必要。

個人事業所(5人以上)

2029年10月から従業員5人以上の個人事業所が全業種で適用対象に拡大。現状の非適用業種(サービス業・農林水産業・宗教等)が撤廃される。ただし2029年10月時点で既に存在する事業所は当分の間 経過措置の対象これから新規開業する5人以上の個人事業所 は、サービス業・農林水産業も含めて原則加入対象になる。

1人法人・小規模法人

→ 直接の影響は限定的だが、将来的にパート・短時間労働者を雇う計画があるなら、2026年10月以降の制度を前提に採用設計 を始める。

⑤ いまから備える5つの準備ステップ

2027年10月の最初の節目を起点に、設立0〜3年目の小規模事業者が踏むべき準備ステップです。

Step 1: 現状の従業員規模を把握(2026年中)

  • 厚生年金被保険者数を月次でカウントし、自社が何人ラインに近づいているかを把握
  • 短時間労働者の人数を集計
    • 2026年中(賃金要件撤廃前):「週20時間以上 + 月8.8万円以上 + 雇用2ヶ月超」で現状の加入対象を集計
    • 2026年10月以降:賃金要件を外し、「週20時間以上 + 雇用2ヶ月超」で再集計(拡大後の対象が見える)
  • 「あと数年でどのラインを超えそうか」を社内・税理士・社労士と共有

Step 2: 人件費シミュレーションを作る(2026年中)

  • 短時間労働者を新規加入させた場合の事業主負担増を試算(②の手順、約16.5%ベース)
  • 全員加入時の年間人件費増加額を算出
  • 3年間の保険料調整措置を利用する場合・しない場合の差を比較
  • 経営計画(中期計画・キャッシュフロー計画)に反映

Step 3: 雇用契約・就業規則の見直し(2026〜2027年)

  • 短時間労働者の雇用契約書を見直し、社保加入条件の記載を最新化
  • 就業規則(10人以上の場合)の労働条件項目を改定
  • パート従業員への事前説明を準備(次のStep)

Step 4: 従業員への説明と合意形成(節目の半年前から)

  • 「106万円の壁」撤廃の意味を丁寧に説明(本人の手取り減・将来の年金増の両面)
  • 3年間の保険料調整措置を利用する旨を伝えると、本人の手取り減ショックが小さい
  • シフト調整希望の聞き取り
  • 副次的に労使トラブルの種にならないよう、書面ベースで説明資料を作成

Step 5: 社保手続きの実務体制(節目当月)

  • 加入手続きを社労士に委託するか、自社で行うか決定
    • 5人未満なら自社対応で十分(手続きが少ない)
    • 10人超で就業規則改定が伴う場合は社労士推奨
  • 給与計算ソフト・人事労務ソフトの設定見直し
  • 月次の社保額・控除額の管理体制を整える

⑥ 設立直後の経営者がやりがちな6つの失敗

「うちは50人以下だから関係ない」と放置する

2027年10月の「36人以上」、2032年10月の「11人以上」、2035年10月の 企業規模要件撤廃 で、ほぼ全企業が対象になる。「3〜10年後は確実に対象」 という前提で経営計画を組む必要がある。

人件費インパクトを試算せずに採用を進める

社保加入で事業主負担は給与の約15〜16.5%増。月10万円のパート5名なら年間約100万円の人件費増。試算なしで採用すると、節目の年に資金繰りが圧迫される。

短時間労働者の労働時間を「20時間未満」に固定して対応する

週19時間で雇用契約を結べば確かに加入対象外。ただし 「働き控え」を強要すると優秀な人材を逃す し、事業の繁忙期に対応できない。長期的には20時間以上で雇って社保を負担するほうが採用力・定着率で得をする。社保完備は40代主婦・シニア層への強い採用武器 という視点も持っておく。

3年間の保険料調整措置の存在を見落とす

節目で新規対象となる規模区分の事業所向けに 「事業主負担を増やし、本人の手取りを守る」措置 が用意されている(任意利用)。これを知らずに従業員説明をすると「いきなり手取り減」のショックで離職を招くケースあり。

就業規則の見直しを後回しにする

10人以上の事業所は就業規則の届出義務がある。社保加入条件・労働時間の取扱いを最新法令に合わせて改定 しないと、労使トラブルや労基署の指摘リスク。改正の節目に合わせて見直すのが効率的。

社労士相談を「人が増えてから」と先延ばし

社労士は設立直後から相談すべき専門家。就業規則の作成・社保手続き・36協定 など、設立2〜3期目で必要になる業務が次々に発生する。税理士と並行して、社労士のセカンドオピニオン体制を作っておくと制度変更時の対応が早い。

⑦ 結論:今年中に「3つの数字」を把握する

設立0〜3年目の小規模事業者にとって、社会保険適用拡大は 「いつかは来る」ではなく「2027年から10年かけて確実に来る」変更 です。

いまから今年中に把握すべき3つの数字:

  1. 厚生年金被保険者数の現在値 — 自社がどの拡大ラインに近いか
  2. 短時間労働者の人数と労働時間 — 「106万円の壁」撤廃で何人が新規加入対象か
  3. 全員加入時の年間人件費増加額(給与の約16.5%) — 経営計画への影響

この3つを把握しておけば、2027年10月以降の制度変更に余裕を持って対応できます。判断に迷う・計画に組み込みたい場合は、税理士経由で社労士を紹介してもらう、または 税理士と社労士を兼業している事務所 に早めに相談を。

よくある質問(FAQ)

Q. 当社は5名の小規模法人です。すぐに影響を受けますか?

直近の影響は限定的です。2027年10月の「36人以上」、2032年10月の「11人以上」、2035年10月の撤廃が順次来ます。ただし「106万円の壁」撤廃(2026年10月)は規模に関係なく適用されるため、短時間労働者を雇用している場合は影響を受けます。

Q. 個人事業所ですが、何人から対象になりますか?

2029年10月から 従業員5人以上の個人事業所が全業種で適用対象 に拡大されます。ただし2029年10月時点で既に存在する事業所は当分の間 経過措置の対象これから新規開業する5人以上の個人事業所 は、サービス業・農林水産業を含めて原則加入対象になります(士業10士業は2022年10月から既に強制適用)。

Q. 配偶者を役員にしている場合はどう判定しますか?

役員は短時間労働者の判定とは別ルールで、原則として常用的に使用されているかで社保加入要否が判定されます。役員報酬額・勤務実態が判断材料。詳細は 役員報酬の決め方 完全ガイド 2026 を参照、または社労士に個別相談を。

Q. パート従業員に「社保加入したくない」と言われたら?

加入要件を満たせば本人の意思に関わらず加入義務があります。説明資料で「将来の年金額が増える」「健康保険の傷病手当金が使える」など本人メリットを伝えるのが現実的。3年間の保険料調整措置(節目で新規対象となった規模・標準報酬月額12.6万円以下対象、本人負担を軽減)を利用する旨も併せて伝えるとショックが小さい。

Q. 「3年間の保険料調整措置」とは具体的にどんな仕組みですか?

事業主の負担割合を増やし、本人の負担を軽減する3年間の任意措置。事業主が追加負担した分は制度全体で支援されるため、事業主の実質負担増にはなりません。3年目は軽減割合を半減し、本則の労使折半に滑らかに戻す段階的設計。本人の将来の年金額は満額納付として扱われ、減ることはありません。利用するかは事業主が選択できます。

Q. 業務委託契約をパート雇用に切り替えると影響は?

切り替え後の雇用形態がパート(雇用契約)で週20時間以上・2ヶ月超見込みなら、社保加入対象になります。業務委託の判定(指揮命令の有無・労働実態)も含めて、社労士に事前相談するのが安全。

Q. 社労士の相談はどこで探せますか?

商工会議所・税理士からの紹介、または社労士マッチングサービスを利用するのが一般的です。設立直後は 税理士と社労士を兼業している事務所、または提携している事務所 を選ぶと効率的。税理士マッチングサービスで紹介を受け、そこから社労士につなぐ流れも実務的です。

社員雇用の実務全般は 初めての社員雇用 完全ガイド 2026、給与計算・労務管理のソフト選定は クラウド会計ソフト比較 2026(freee人事労務・マネーフォワード給与計算など)を参照してください。社保適用拡大の業種別影響試算や就業規則の見直しは、税理士経由で社労士紹介を受ける、または 税理士と社労士兼業の事務所に相談する のが現実的に最速です。