育児・介護休業法 2025年改正|従業員数名の会社の対応漏れ総点検
従業員が数人の会社にとって、2025年の育児・介護休業法改正は「規模が小さいから免除」がほぼ効きません。規模で外れるのは大企業向けの公表義務だけ。一方で、対応そのものは多くが「規程の数行追加」と「面談時の一声」で済みます。
たとえば、勤続5か月の従業員から子の看護休暇を申請され、旧規程の「勤続6か月未満は対象外」を理由に断ってしまう。これは2025年4月でもう過去のルールです。こうした「気づかず古い対応をしてしまう」漏れが、最初の育休や看護休暇の申請で表に出て、両立支援の助成金や従業員の信頼を失う小さな会社が出ています。2025年4月・10月の改正はすでに施行済みなので、いまは「これから準備」ではなく 「対応漏れがないかを総点検する」 フェーズです。
【重要】 本記事は2026年6月時点の法令・厚生労働省公開情報に基づき、一般的な対応の考え方を整理したものです。施行内容・様式・助成金の要件は変更されることがあるため、対応前に厚生労働省・所轄の労働局/労働基準監督署の最新情報を確認してください。自社の実態に合わせた個別判断は社会保険労務士にご相談を。
まず30秒で自己診断
次のうち、ひとつでも当てはまるなら、矢印の先の項目だけでも目を通してください。全部を読み込む必要はありません。
- □ 小学校3年生までの子を育てている従業員がいる →「① 子の看護等休暇」
- □ 小学校就学前の子を育てている従業員がいる →「② 残業免除」
- □ 3歳〜小学校就学前の子を育てている従業員がいる →「2025年10月施行分」
- □ 親の介護に直面しそうな従業員がいる →「⑤ 介護離職防止」
- □ 育児・介護休業規程を2025年に一度も見直していない/そもそも作っていない →「チェックリスト」
- □ パート・有期雇用の従業員がいる →「よくある誤解」「FAQ」
記事末尾に、この診断結果と「やること」を結んだ早見表を置いています。
結論:規模で免除される義務は「公表義務」だけ
最初に全体像です。2025年改正で「会社の規模」が要件になっているのは、育児休業取得状況の公表義務(常時雇用する労働者が300人超)だけです。それ以外は、従業員1人の会社にも同じように適用されます。
| 改正項目 | 施行 | 規模要件 | 数名規模の会社 |
|---|---|---|---|
| 子の看護等休暇の拡大 | 2025/4 | なし | 対応必要 |
| 残業免除の対象拡大(小学校就学前まで) | 2025/4 | なし | 対応必要 |
| 育児目的のテレワーク(努力義務) | 2025/4 | なし | 努力義務 |
| 育休取得状況の公表義務 | 2025/4 | 300人超 | 対象外が多い |
| 介護離職防止の措置 | 2025/4 | なし | 対応必要 |
| 柔軟な働き方を実現するための措置 | 2025/10 | なし | 対応必要 |
「うちは小さいから関係ない」は、この公表義務の話が独り歩きした誤解です。
なお、規模が要件になるものをもう一つだけ補足します。育児・介護休業法とは別の法律ですが、同じ2025年4月に改正された次世代育成支援対策推進法では、常時雇用する労働者が100人超の事業主に、一般事業主行動計画の策定・届出と、育休取得率などの数値目標の設定が義務づけられました。従業員数名のうちは関係ありませんが、採用が進んで100人を超える規模に成長したら、この行動計画の義務が別途発生する点だけ頭の隅に置いておきましょう。
先に潰しておきたい、よくある誤解
各論に入る前に、小規模事業者がやりがちな勘違いを先に正しておきます。
- 「就業規則がない=対応不要」ではない:常時10人未満で就業規則の作成義務がない会社でも、育児・介護休業法そのものは適用されます。看護等休暇や残業免除は、規程の有無にかかわらず労働者の権利です。むしろ規程がないと運用がぶれてトラブルになりやすいので、この機会に整備するのが安全です(→ 就業規則の作り方)。
- 「正社員だけが対象」ではない:パート・有期雇用の従業員も、要件を満たせば育児・介護休業や看護等休暇の対象です。「アルバイトだから関係ない」と断ると、不利益取扱いと受け取られるリスクがあります。
- 「申請されてから考えればいい」ではない:10月施行分(後述)には、対象の従業員へ会社側から制度を周知し、意向を確認する義務が含まれます。申請を待つ姿勢そのものが対応漏れになり得ます。
2025年4月施行分|4つの拡大+介護対応
① 子の看護休暇 →「子の看護等休暇」に拡大【今すぐ点検】
名称が「子の看護等休暇」に変わり、中身が広がりました。
- 対象の子の年齢:小学校就学前 → 小学校3年生修了までに延長
- 取得できる事由の追加:従来の病気・けが・予防接種に加え、感染症に伴う学級閉鎖等、入園(入学)式・卒園式などの行事参加が対象に
- 勤続6か月未満の除外を廃止:労使協定で「勤続6か月未満は対象外」とできた規定がなくなり、入社直後でも取得可能に
ただし、週の所定労働日数が2日以下の労働者を労使協定で除外できる規定は残っています。「除外がすべてなくなった」わけではない点に注意してください。数名規模でも、規程の対象年齢・事由・除外規定の書き換えが必要です。
② 残業免除(所定外労働の制限)の対象拡大【今すぐ点検】
子を養育する労働者が請求した場合に残業(所定外労働)を免除する制度の対象が、「3歳未満」から「小学校就学前」まで広がりました。対象の子を持つ従業員から請求があれば、原則として残業をさせられません(→ 残業のルールは 36協定の作り方 も参照)。
③ 育児のためのテレワーク導入(努力義務)【後回し可・ただし検討推奨】
3歳未満の子を養育する労働者が利用できるテレワークの導入が、努力義務になりました(短時間勤務が難しい職種の代替措置としてもテレワークが追加)。義務ではないため即時の罰則はありませんが、10月施行分の「柔軟な働き方の措置」とセットで考えると効率的です。
④ 育休取得状況の公表義務の拡大【多くの小規模は対象外】
公表義務の対象が常時雇用1,000人超 → 300人超に拡大されました。ここが育児・介護休業法のなかで唯一、規模要件のある項目で、従業員数名の会社は基本的に対象外です(300人の手前、100人超で先に発生する次世代法の義務は前述のとおり)。
⑤ 介護離職防止の措置の義務化【今すぐ点検】
育児だけでなく介護も改正対象です。介護に直面した従業員への個別周知・意向確認、介護休業等に関する研修や相談窓口などの雇用環境整備、そしておおむね40歳に達するタイミング(その年度など)の従業員への両立支援制度の情報提供が義務化されました。親の介護世代の従業員がいる会社は、案内の様式を用意しておきましょう。
2025年10月施行分|「柔軟な働き方を実現するための措置」
ここが10月改正の本丸です。3歳〜小学校就学前の子を養育する労働者に対して、次の5つの選択肢から2つ以上を会社の措置として用意する義務が生じました。
- 始業時刻等の変更(フレックスタイム制、時差出勤など)
- テレワーク等(月10労働日以上利用でき、時間単位で取得可能なもの)
- 短時間勤務制度
- 保育施設の設置運営等(ベビーシッターの手配・費用補助を含む)
- 養育両立支援休暇の付与(年10日以上、時間単位で取得可能)
加えて、対象の従業員に対して、この措置を個別に周知し、どれを使いたいか意向を確認する義務、および妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に仕事と育児の両立について個別に意向を聴き、配慮する義務があります。
注意点が一つあります。厚生労働省は、その職種では現実的に使えない措置だけを2つ並べても、義務を果たしたことにはならないとしています。形式的に2つそろえるのではなく、対象の従業員が実際に使える組み合わせを選んでください。
数名規模での選び方の考え方
どれを選ぶかは業種で変わりますが、従業員数名の会社が運用しやすい組み合わせを整理します。
- オフィスワーク中心なら「① 始業時刻等の変更(時差出勤・フレックス)」+「② テレワーク」。どちらも設備投資がほぼ要らず、いまの働き方の延長で導入できます。
- 製造・接客など在宅が難しい業種では、②テレワークは形だけになりがちです。その場合は「① 始業時刻等の変更」+「③ 短時間勤務」のほうが、実際に使える措置になります。
- ③ 短時間勤務は給与計算(→ 給与計算を自分でやる)と社会保険の扱いが絡むので、選ぶなら運用ルールを先に決めておきます。
- ④ 保育施設の設置運営・⑤ 養育両立支援休暇の新設は、数名規模には重い選択肢です(費用管理や規程改定の負担が大きいため)。
判断の軸はシンプルで、自社の従業員が実際に使えるかどうか。ここを基準に2つを選べば、形だけの対応になりません。
放置すると何が起きるか
「罰則がないなら後回しでいい」と考えがちですが、小規模事業者ほど対応漏れのダメージが大きくなります。
- 両立支援等助成金を取り逃す:育休取得や柔軟な働き方の整備は、両立支援等助成金(出生時両立支援コース、育児休業等支援コースなど)の対象になり得ます。規程・運用が整っていないと、もらえたはずの助成金を逃します。
- 育休・看護休暇トラブルが労使紛争に:申請を断る、不利益な扱いをするといった対応は、個別労働紛争やあっせんに発展します。数名の会社では一件のトラブルが組織全体に響きます。
- 採用と評判への影響:子育て世代の採用で「両立支援が整っていない会社」と見られると、ただでさえ不利な小規模採用がさらに難しくなります(定着の観点は 従業員の定着・離職防止 も参照)。
自己診断→やること 早見表
冒頭の自己診断で当てはまった項目を、対応する「やること」に結びました。ここだけ印刷して手元の点検表に使えます。
| あなたの状況(自己診断の□) | 読む項目 | やること |
|---|---|---|
| 小3までの子の従業員がいる | ① 子の看護等休暇 | 規程の対象年齢・事由・除外規定を改定 |
| 小学校就学前の子の従業員がいる | ② 残業免除 | 残業免除の対象年齢を就学前に更新 |
| 3歳〜就学前の子の従業員がいる | 10月・柔軟な働き方 | 5択から実際に使える2措置を選び、周知・意向確認 |
| 親の介護世代の従業員がいる | ⑤ 介護離職防止 | 個別周知・相談窓口・情報提供の様式を用意 |
| パート・有期がいる | ① ・ FAQ | 要件を満たす人を対象から外していないか確認 |
| 規程が未整備 | チェックリスト | 育児介護休業規程(就業規則)ごと整備 |
最低限やることチェックリスト
早見表の「やること」を、3ステップに集約すると次のとおりです。
- 育児・介護休業規程(または就業規則)を改定する:子の看護等休暇の年齢・事由・除外規定、残業免除の対象年齢、10月の柔軟な働き方の措置(選んだ2つ)を反映。規程がなければこの機会に作成(→ 就業規則の作り方)。
- 運用の様式を用意する:看護等休暇の申請様式、10月措置の個別周知・意向確認の書面、介護の個別周知の案内。一度ひな形を作れば使い回せます。
- 対象の従業員に周知する:すでに対象の子を持つ従業員がいれば、措置の内容と利用方法を個別に伝え、意向を確認する。これから雇うなら入社時の説明に組み込む(→ 初めて従業員を雇うときの手続き)。
よくある質問(FAQ)
Q. 従業員が配偶者と自分だけ(実質1人法人)でも対応が必要ですか?
育児・介護休業法は労働者を雇用していれば適用されます。役員のみで労働者がいない場合は対象外ですが、家族を従業員として雇っている場合は対応の検討が必要です。子の看護等休暇や残業免除は、会社の規模に関係なく適用されます。
Q. 就業規則を作る義務がない(10人未満)のですが、育児介護休業の規程も不要ですか?
就業規則の作成・届出義務(常時10人以上)がなくても、育児・介護休業法上の権利(子の看護等休暇・残業免除・柔軟な働き方の措置)は適用されます。トラブル防止のため、育児・介護休業に関する規程は整えておくのが安全です。
Q. 2025年10月の「2つ以上の措置」は、全従業員に提供する必要がありますか?
対象は「3歳から小学校就学前の子を養育する労働者」です。対象者がいない時点でも制度として用意しておく必要がありますが、実際の利用は対象者が出たときです。なお、その職種で現実的に使えない措置だけを2つ並べても義務を果たしたことにはならないため、実際に使える組み合わせを選ぶ必要があります。
Q. パートタイマーも子の看護等休暇の対象ですか?
日々雇用される人を除き、要件を満たすパート・有期雇用の労働者も対象です。ただし週の所定労働日数が2日以下の労働者は、労使協定で対象外とすることができます。取得日数は所定労働日数に応じて決まります。
Q. 2025年改正で、会社の規模によって免除される義務はありますか?
育児・介護休業法のなかで規模要件があるのは「育児休業取得状況の公表義務(常時雇用300人超)」だけです。子の看護等休暇の拡大、残業免除の対象拡大、10月の柔軟な働き方の措置などは規模に関係なく適用されます。なお別の法律である次世代育成支援対策推進法では、常時100人超で一般事業主行動計画の策定・届出と数値目標の設定が義務づけられています。
まとめ
2025年の育児・介護休業法改正は、規模で免除されるのが公表義務(300人超)だけで、ほかは従業員数名の会社にも適用されます。やることは「規程の数行追加」「申請・周知の様式づくり」「対象者への一声」が中心で、構えるほど重くはありません。
まずは自己診断で当てはまった項目を、早見表とチェックリストで「やること」に落としておきましょう。就業規則や初めての雇用とあわせて進めると効率的です。
