Editorial / 労務・社会保険

36協定の作り方 2026|残業させる前に必要な届出と上限規制

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初めて社員を雇い、繁忙期に「少しだけ残業をお願いしたい」——その瞬間、手続きを踏んでいなければ、あなたは知らないうちに労働基準法違反になっているかもしれません。残業や休日出勤をさせるには、その前に「36協定(サブロク協定)」を結んで届け出ておく必要があるからです。

本記事は、雇用全般を扱う 初めての社員雇用 完全ガイド 2026 の次のステップとして、「残業させる前に何をすればいいか」 だけに絞って、設立0〜3年目の小規模事業者向けに整理します。これを読めば、初めての残業で違反しないための手順がわかります。

【重要】 本記事は2026年5月時点の法令・厚生労働省公開情報に基づきます。罰則の刑種は2025年6月施行の改正刑法で「懲役」から「拘禁刑」に一本化されましたが、厚労省の解説には旧表記が残ることがあります。様式・上限規制の細目は変更されることがあるため、届出前に厚生労働省・所轄の労働基準監督署の最新情報を確認してください。個別の労務判断は社会保険労務士にご相談を。

① 36協定とは何か — 残業の「許可証」

労働基準法32条は、労働時間を 1日8時間・週40時間以内 に制限しています。これを超える時間外労働(残業)や、法定休日の労働をさせるには、労使で 36協定(労基法36条に基づく労使協定) を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。

ここで言う 「法定休日」 とは、会社が独自に定める休日(所定休日)とは別に、法律が最低限保証する休日(週1日 または 4週4日) のこと。土日休みの会社でも、法定休日にあたる日に働かせると「休日労働」として36協定が必要になります。

届出をすると「法定時間を超えて働かせても罰せられない」効果が生じます。これを 免罰効果(本来は違法な残業が“お咎めなし”になる仕組み)と呼びます。逆に言えば、届出が無ければ残業をさせること自体が違法 です。

罰則 — 「無届の残業」と「上限オーバー」は別の違反

罰則の対象になるのは、次の2つです(どちらも罰則規定は同じ労基法119条)。

  • ①36協定を結ばず(または届け出ず)に法定時間外・法定休日労働をさせる → 労基法32条違反
  • ②上限規制を超えて働かせる → 労基法36条6項違反

①②いずれも、労基法119条により6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。罰せられるのは原則として使用者です。

※ 2025年6月1日施行の改正刑法により「懲役・禁錮」は「拘禁刑」へ一本化されました。厚労省の解説ページは旧「懲役」表記が残っていることがありますが、法律上は拘禁刑です。

② 自社に36協定は必要か — 判定

従業員を1人でも雇い、法定労働時間を超える残業 または 法定休日労働をさせるなら必要 です。雇用形態(正社員・パート・アルバイト)は問いません。判定の例外・注意点は次のとおりです。

同居の親族だけで回している場合

同居の親族のみを使用する事業 は労働基準法の適用除外(労基法116条2項)のため、36協定は不要です。ここでの「同居の親族」は 事業主と生計を同じくする民法上の親族 を指します。

ただし、同居親族以外の労働者を1人でも常時使用していれば適用対象 です。さらにその場合、同居親族であっても就労実態(指揮命令・労働時間・賃金が他の従業員と同様か)次第で「労働者」として扱われることがあります。

管理監督者(いわゆる管理職)の扱い

労基法41条の 管理監督者 は労働時間規制の適用除外で、時間外労働の枠の対象外です。ただし、肩書きだけの 「名ばかり管理職」は無効。また管理監督者であっても、深夜割増賃金や健康確保措置は別途必要です。

「残業は一切させない」運用なら36協定は不要ですが、繁忙期や突発対応を考えると、雇用したら早めに結んでおくのが実務上は安全 です。

③ 残業時間の上限規制 — 特別条項でも“天井”がある

働き方改革関連法により、残業時間には罰則付きの上限が法定されています(大企業2019年4月・中小企業は2020年4月施行、いずれも現行)。

結論:特別条項を結んでも「年720時間・単月100時間未満」が絶対の天井です。

区分上限
原則月45時間・年360時間
特別条項(年合計)年720時間以内
特別条項(単月)100時間未満(休日労働を含む)
特別条項(複数月平均)2〜6か月平均80時間以内(休日労働を含む)
特別条項(回数)月45時間を超えられるのは年6回まで

出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制」。

特別条項は「臨時的・突発的」な場合に限られます。恒常的に限度時間超を前提にするのはNGで、超過は36条6項違反として罰則の対象になります。

④ 様式と書き方 — 様式第9号/第9号の2

使う様式は2種類です。

  • 様式第9号:限度時間(月45時間・年360時間)の範囲内で残業させる場合(一般条項)
  • 様式第9号の2:限度時間を超えて残業させる可能性がある場合(特別条項付き)

2021年4月の様式改正(現行)

使用者の押印・署名は廃止 され、代わりに過半数代表者の適格性を確認する チェックボックス が新設されました。確認事項は次の3点です。

  1. 全労働者の過半数を代表する者であること
  2. 管理監督者でないこと
  3. 投票・挙手など民主的手続きで選出され、使用者の意向で選ばれた者でないこと
※ 押印が廃止されたのは 36協定「届」(労基署へ出す書類)です。労使間の合意文書である 協定書 には、後日のトラブル防止のため署名・記名押印を残しておくのが実務上は安全です。

主な記載項目は、時間外労働をさせる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者数、延長できる時間(1日・1か月・1年)、有効期間など。厚労省の「36協定届 作成支援ツール」やe-Govの様式が利用できます。

⑤ 過半数代表者の選び方 — 間違えると協定が無効

36協定は、使用者と「労働者側の代表」が結ぶ協定です。労働者の過半数で組織する労働組合があればその組合と結びますが、多くの小規模事業者には組合がない ため、「労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)」を選ぶ必要があります。要件は次のとおりです。

  • 管理監督者は代表者になれない(ただし、過半数を計算する母数の「全労働者」には管理監督者も数える)
  • 投票・挙手・話し合いなど民主的な手続きで選出 されること
  • 使用者の意向で選出された者でないこと(=社長が指名するのは無効)
  • 36協定締結のための選出であることを明らかにして行うこと

実務の流れ

  1. 全従業員に「36協定の過半数代表を選ぶ」旨を周知する
  2. 立候補・推薦を募る
  3. 投票・挙手・回覧などで信任を得る
  4. 選出の経緯(日付・方法)を記録に残す

親族や社長指名で代表を立てると、協定そのものが無効 になり、「36協定がない=違法残業」と同じ扱いになります。設立直後で従業員が数人でも、この手続きは省かないでください。

⑥ 届出の手順

  1. 時間外・休日労働の必要性と上限を社内で整理(②③をもとに)
  2. 過半数代表者を適正に選出(⑤)
  3. 様式第9号 または 第9号の2を作成し、労使で締結
  4. 所轄の 労働基準監督署 へ届出(窓口・郵送・e-Gov電子申請)。e-Govなら2021年4月から電子署名・電子証明書が不要
  5. 締結しただけでは足りず、届出があって初めて免罰効果が生じる。有効期間は通常1年(1年とするのが望ましいとされる)。期間満了前に再締結・再届出(毎年更新)

まず何から? 迷ったら、厚生労働省の「36協定届 作成支援ツール」または e-Gov で 様式第9号を開いてみる ところから。記載項目を見れば、自社で何を決めればいいかが具体的に見えてきます。

⑦ 建設・運送・医師は別ルール(業種特例)

建設業・自動車運転業務(ドライバー)・医師は、2024年4月から上限規制が適用開始されましたが、通常とは異なる特例上限(例:ドライバーは時間外の年間上限が年960時間など)が設けられています。該当する業種で人を雇う場合は、厚生労働省の業種別特設ページを確認するか社会保険労務士に相談してください。本記事の数値(月45時間・年360時間ほか)は一般の事業向けです。

⑧ 小規模事業者がやりがちな失敗

そもそも36協定を結んでいない

残業させていれば、その時点で労基法32条違反。「うちは小さいから大丈夫」は通用しません。

毎年の更新を忘れる

有効期間が満了すると免罰効果が切れ、以後の残業が違法に。更新時期をカレンダー登録しておく。

過半数代表者を社長が指名・親族を充てる

民主的手続きを欠くと協定自体が無効。「36協定がない」のと同じ状態になります。

特別条項を恒常的に使う

特別条項は臨時・突発の場合限定。常態的な長時間残業の言い訳には使えません(年6回まで)。

限度時間の管理を怠る

単月100時間・複数月平均80時間の超過は罰則対象。残業時間を記録・集計する体制 が必要です。

⑨ 結論:雇ったら「残業させる前」に3点

  1. 36協定を締結・届出(様式第9号 または 第9号の2)
  2. 過半数代表者を民主的手続きで適正に選出
  3. 毎年の更新と、残業時間の上限管理をルーティン化

特別条項や業種特例が絡む場合、就業規則の整備も含めて社会保険労務士に相談するのが安全です。社員雇用の実務全般は 初めての社員雇用 完全ガイド 2026、社会保険の今後の負担増は 社会保険適用拡大2027-2035、雇用か業務委託かの判断は 業務委託と雇用契約の違い を参照してください。

よくある質問(FAQ)

Q. 従業員1人でも36協定は必要?

残業や法定休日労働をさせるなら必要です。雇用形態(正社員・パート・アルバイト)は問いません。させないなら不要ですが、繁忙期に備えて早めの締結が安全です。

Q. 36協定を出さずに残業させたら?

労基法32条違反となり、119条により 6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 の対象。罰せられるのは原則として使用者です。

Q. 残業時間に上限はある?

原則 月45時間・年360時間。特別条項を結んでも、年720時間以内/単月100時間未満/複数月平均80時間以内/月45時間超は年6回まで、を超えられません。

Q. 特別条項とは?

原則の限度時間を超えて残業させる必要がある場合に様式第9号の2で結ぶ上乗せの取り決め。臨時的・突発的な場合限定で、月45時間超は年6回まで、年720時間などの絶対上限も適用されます。

Q. 過半数代表者は誰でもいい?

管理監督者はなれず、投票・挙手など民主的手続きで選出。社長指名は無効です。代表者が不適格だと協定自体が無効になります。

Q. 毎年出し直す必要がある?

有効期間は通常1年。続けるなら毎年締結・再届出が必要です。更新を忘れると免罰効果が切れ、以後の残業が違法になります。

Q. 電子申請できる?

e-Govで可能。2021年4月から電子署名・電子証明書は不要です。同改正で押印廃止・チェックボックス新設も行われています。